本研究の目的は,管理会計の新機能として,テンション・マネジメント(業績目標の設定やマネジメント・コントロール(MC)システムの設計・運用によって,業務目標間のトレードオフや組織成員の受ける緊張状態に影響を与え,組織プロセス・成果へ影響を及ぼすマネジメント)機能に関する知見を深めることにあった。具体的には,第1に予算管理や業績評価に代表されるMCを対象にテンションの観点からその機能・役割を探究し,第2に原価企画などのコストマネジメントにおける機能に焦点を当て,組織成果への影響の解明を目的としていた。 今年度は,計画通り米国でのNPO法人や小規模企業を中心に訪問調査を実施するとともに,日本の全上場企業を対象に郵送質問票調査を実施した。質問票調査では370社余りからの回答を得て,現在も順調に分析を進めている。 研究期間全体を通じての研究成果の具体的内容としては,第1の研究目的については,従来から指摘されてきた対人関係に加えて手続きの公平性が重要であることや,不確実性の高い環境下では予算厳格度を低め業績評価の主観性を高めることが財務業績を高めることを明らかにするなど,目標設定と評価とのバランスを強調した。第2の研究目的については,プロセス産業では挑戦的目標原価と部門間協働の相互作用が原価低減を促進することなど,目標設定とその達成のためのサポート体制とのバランスを強調した。また革新的生産管理手法が組織に導入される時に生じるテンションに対しては地道に局所的に対処し続けることで円滑に事が運ぶこともわかった。 研究の意義・重要性として、管理会計によるテンション・マネジメントによる経営問題への処方箋を示してきた。具体的には、テンションの見える化が重要であり、いかなるMCにも順機能とともに逆機能が伴うことを知り,関連する組織のルールや仕組みが及ぼす影響に十分に配慮する必要があることを示した。
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