日本の上場企業について四半期利益情報と四半期株主資本情報を用いて、コブ・ダグラス型生産関数類似の定式化をし、次期四半期利益と次期四半期株主資本を予測するモデルを構築し、クロスセクションでパラメータ推定を実施した。このモデルの予測精度は高く、サンプル外の予測においても変動の9割以上を説明する。 しかし、このモデルの企業価値評価における予測精度は高くない。クリーン・サープラス関係を使って将来の配当流列を四半期利益と四半期株主情報で表わし、これを配当割引モデルに代入して現在の時価総額を説明しようとすると、分母に使用される株主資本コスト(割引率)が50%を超えてしまう場合がしばしばあった。 このような高率な株主資本コストを正当化することは難しく、利益や資本の予測モデルの精度の高さを考えると、クリーン・サープラス関係か配当割引モデルのどちらかが成立しないことが予測される。 近年の会計基準の時価主義的傾向から、当期純利益に算入されないダーティ・サープラス項目が増えつつある。当期純利益よりも、いわゆる含み益を反映した包括利益のほうが時価総額説明能力が高いのかもしれない。とくにその他有価証券評価差額金については、アメリカにおいて当期純利益に算入するようにルール変更されたところでもあり、利益の再定義をするのが1つの改善方向であろう。 一方、配当割引モデルの妥当性が崩れるのは、評価対象企業とそれ以外の企業とのあいだにシナジーがあり、買収対象となった場合に将来配当の現在価値以上の価値を持つ可能性が考えられる。この場合は買収の確率も織り込んだモデル構築が必要とされよう。
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