研究課題/領域番号 |
16K04007
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
藤井 誠 日本大学, 商学部, 准教授 (80409044)
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研究分担者 |
古田 美保 甲南大学, 経営学部, 教授 (90368473)
古市 雄一朗 大原大学院大学, その他の研究科, 准教授 (40551065)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 税務会計 / 企業会計 / 財務会計 / 資本 / 純資産 / 資本取引 / 非営利会計 / 学校法人会計 |
研究実績の概要 |
近年の税制改正においては,法人税率軽減や新規定導入に際して,しばしば「税収中立」あるいは「税源確保」なる言葉が一つの道標のごとく用いられるが,これは専らマクロ的視点によるものであり,個々の法人というミクロ的視点が欠けていると言わざるを得ない。本来,個々の法人における所得を基礎として算出,納付される法人税額の総和が法人税収となるべきものであり,そこで重視されるべきは個々の法人における所得計算の適正性である。 言うまでもなく,個々の法人の法人税額(面積)は,所得金額(横軸)に税率(縦軸)を乗じたものとなるのだが,結果としての面積のみを見るのではなく,横軸と縦軸という二つの計算要素にそれぞれ合理性を持たせることが不可欠であろう。税務会計論という学問においては,横軸の適正性を吟味することはとりわけ重視されるべきものと思われる。本研究において取り上げた一連の益金不算入割合の縮減措置は,法人税率の引き下げによる税収不足を補うための措置であると説明されるが,税務会計の観点からは,税率と課税所得は一方の影響が自動的に他方に及ぶ関係にあるべきものではない。 たとえば,課税所得が1,000の法人が200の受取配当益金不算入の恩恵を失い,1,200の課税所得となったとすると,税率が6%から5%に減少した場合に同等の税負担(60)となる。 しかし,もともと赤字の法人(所得△100)が,同額の配当について益金不算入とされないことにより,課税所得が100となるため,5の法人税負担が新たに生ずることになる。このような課税は,適正な課税所得の算定を歪曲するものといえるだろう。 以上のごとく,近年の税制改正の方向性に資本の減少をもたらす配当に焦点を当てることにより,歪みが生じていることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
法人税は,所得税の前取りという観点からはいかなる税率でも構わないことになる。しかし,法人税の独立性が強まるとき,国際競争力の観点からも税率が問題となり,それは個人所得税とは全く無関係に議論される事柄となる。これは,法人個人断裂が顕在化していることの証左である。ただし,この断裂をどこまで認めるのか,どこで食い止めるのかを決めておくことは重要であろうと思われる。社会構造の変化に事後的に対処するのではなく,想定されうる変化に対して規範となる方向軸を示しておくことが必要なのである。 また,資本の増殖である利益あるいは所得計算において,IFRSの影響による会計と税務の乖離が進行しつつある一方で,資本の減少である配当において,会社法の変容による会計と税務の乖離が進行している。法人税法が22条4項を含む確定決算主義を堅持する一方で,課税所得計算の枠外にある資本の定義と配当を含む資本の減少に関しては,法人税法独自の姿勢を貫こうおとしており,内容的には不変であることを形式的な変化によって対応せざるをえない状況にあるといえるだろう。 これまでの研究により,(1)資本の減少形態である配当について歪みが生じていること,(2)会社法の変容により,会計と税務との乖離が進んでいることの二点が明らかになるとともに,関連領域の研究も進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,より複雑な場合における配当についても考察が必要となる。かつての商法の枠内において,法人税法は比較的単純な組織再編,すなわち,合併や現物出資のみを想定していたが,商法において分割が導入されたことを端緒として組織再編税制が整備され,それに続く連結納税制度,さらにはグループ法人税制の導入により,企業組織形態の複雑化に伴う企業集団単位課税のもとでの法人間配当を考慮する必要性が出てきた。 そして,内国法人の海外進出や外国法人による国内投資が顕著になると,内国法人の国外所得に対する課税と外国法人の国内源泉所得に対する課税への対応が重要となる。内国法人の有する外国子会社等からの配当という問題のみならず,外国法人が第三国において生ずる所得への課税についても考慮しなければならない。 また,非営利法人における資本概念および損益計算についても,資本概念からの接近を試みる。そのため,現在までに行った非営利法人形態別の会計基準等を分析し,具体的な検討に入る段階に進む。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画書に基づき,平成28年度の研究は順調に進んでいるが,平成29年度の研究内容の一環であるドイツにおける文献収集およびヒアリング調査が先方の都合により,年度内に実施できず,翌年度に実施される予定であるため,一部の研究費執行について翌年度に繰越が生じている。 また,研究分担者2名においても同様の事情により,平成29年度とされているものが生じている。 文献購入については,既に出版済みのものは予算執行期間に間に合うように購入申請を行うことが可能であるものの,追録の形で購入するもの等についてはそれが不可能であるため,やむを得ず平成29年度に繰り越したものである。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度において,前年度からの繰越分を含め,当初の研究計画に基づいた予算執行を行う予定である。前述の理由により,予算執行に遅れが生じているものの,平成28年度の研究進捗状況は予定通りであり,平成29年度の研究についても,データの収集等の作業には着手できており,年度内においてスケジュールの調整を行うことにより,計画に沿った研究を実施できる見込みである。
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