研究課題/領域番号 |
16K04008
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
林 健治 日本大学, 商学部, 教授 (60231528)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | リース契約 / シングルモデル / デュアルモデル / 財務制限条項 / オペレーティングリース |
研究実績の概要 |
国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)は,2006年から共同でリース会計基準の開発プロジェクトに着手し,リース会計基準の国際的収斂に取り組んだ。共同プロジェクト開始からおよそ10年の歳月を経た2016年1月に,まずIASBが国際財務報告基準第16号(IFRS16)「リース」を公表した。それに続いてFASBは,2016年2月に,Accounting Standards Update;ASU2016-02 Leases(Topic 842)を公表した。空輸業,小売業に限らず,営業用車両,OA機器,事務所用建物などリースする企業が多く,リース取引は広く普及しており,IASBとFASBのリース会計基準の改定について検討する意義は大きいと考えられる。そこで,本年は,IASBとFASBが2016年に相次いで公表した新リース会計基準におけるリースの定義・処理に関する整合性を吟味し,新基準適用の財務諸表の数値,財務比率(負債比率など)への影響予測を試みた。 両基準審議会が新リース会計基準を公表した主旨は,オペレーティング・リースのオンバランス化にあったと解される。しかし,対処方法は一様ではなかった。すなわち,IASBのIFRS16がシングル・モデルを採用したのに対し,FASBのTopic 842は,デュアル・モデルを採用し,対応が分かれたのである。新基準適用の影響に関するIASB自身の予測,オペレーティング・リースの推計的資本化に関する先行研究の成果からすると,新リース基準がオペレーティング・リースの依存率が高い業種の負債に与える影響は大きく,財務制限条項への抵触も懸念された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
企業会計審議会は2013年6月に「国際会計基準に対する当面のあり方に関する当面の方針」を公表た。この当面の方針において,IFRSに準拠して連結財務諸表を作成する取組・体制の維持を引き続き要求した。しかし,上場会社であること,国際的財務活動・事業活動を行っていること(外国に資本金20億円以上の子会社を有するなど)をIFRS任意適用の要件とせず,3要件のうちの2要件を緩和した。 翌年,政府は日本再興戦略 改訂2014において,金融・資本市場の活性化のため,IFRS任意適用のさらなる拡大を目標として掲げた。自民党日本経済再生本部が2013年5月に公表した「中間提言」で,経営革新性の観点から国際標準として評される企業から構成される新指数グローバル300社の創設の必要性が叫ばれ,IFRS導入が新指数構成銘柄の要件のひとつとされた。 こうした国をあげてのIFRS任意適用の積み上げのための試みが奏功し,2019年4月現在において,我が国のIFRS適用済会社,IFRSを適用して新規上場した会社,IFRS適用決定会社数は,合計で143社に達している。 IFRS適用会社数が40社程度に留まっていた現状が打開されつつある。先行研究の多くは欧米の資本市場を分析対象としており,日本の証券市場に関する証拠の蓄積は十分ではなかった。今後,IFRS任意適用企業が目途とする300社に近づき,かつ各社のIFRS適用決算報告データが蓄積されれば,本研究のデータ分析材料が揃うと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
財務会計(財務報告)は,意思決定支援機能と契約支援機能の2つも併せ持つことが期待される。これまで財務会計の研究においては,投資意思決定支援機能にしばしば焦点が当てられ,財務会計(財務報告)が契約支援機能を果たしているかについては,さほど検討されていないように思われる。株主,債権者などの外部利害関係者は,自分自身の利益の最大化に資するように,経営者の報酬額を決定する契約を締結し,債務契約を締結する。株主,債権者は,財務諸表本体または注記における数値を参照して財務比率を算定し,当事者の契約の履行状況を確認し,もって,経営者と外部利害関係者間の情報の非対称性を縮小させ,エージェンシー・コストの削減をはかる。 次年度においては,財務会計(財務報告)が契約支援機能を果たしているかについて次のように検討する。市場参加者がIFRSを適用する企業のオペレーティング・リースなどに関する財務諸表本体または注記情報を参照して,レバレッジを修正し,株式リスクを評価しているかについて検証する。海外における先行研究によれば,信用リスク評価にあたって,注記情報に基づくオペレーティング・リースの推計債務は,財務諸表の本体で認識されたファイナンス・リース債務と同様のリスク関連性を有するとされている。企業によって信用状態が異なる現状を考慮して,企業別に適切な割引率を適用し,現在価値法を用いてオペレーティング・リース債務を推計し,リース債務と格付に関する回帰モデルを設定し,検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究作業の遂行上,必要に応じ,研究費を執行したため,当初の見込額と実支出額は1万円1千円余り異なったが,研究計画に変更はなく,前年度の研究費も含め,当初の予定通り計画を進めていく。
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次年度使用額の使用計画 |
日本経済新聞社の財務データベース Financial Questを次年度も利用する場合には,使用料をその他に分類する。支払請求金額と実支出額に差が生じないにように,出張計画を立て研究発表を行う。
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