研究課題/領域番号 |
16K04008
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
林 健治 日本大学, 商学部, 教授 (60231528)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 財務制限条項 / 契約支援機能 / リース契約 |
研究実績の概要 |
2006年7月にIASBは,FASBと共同で基準開発プロジェクトに着手し,リース会計基準の国際的収数に取り組んだ。プロジェクトの成果は,2009年3月のディス力ッション・ペーパー「リース:予備的見解」を皮切りに,2010年8月に公開草案「リース」を,さらに2013年5月に改訂公開草案「リース」に至るまで順次公表された。 改訂公開草案「リース」の公表後,各界からのコメントを受け,IASBは2016年1月13日に,IFRS16「リース」を,FASBは同年2月25日に,ASU 2016-02 Leases(Topic 842)をそれぞれ公表した。共同開発の結果,リース会計基準の統一化には至らず,対応は分かれた。すなわち,IFRS16がシングル・モデルを採用したのに対し,FASBのTopic 842はデュアル・モデルを採用したのである。 一方で,両基準はともにオペレーティング・リース取引に関連する権利と義務のオンバランス化を求めた。IFRS16およびFASB-ASC Topic 842は,従前にはオペレーティング・リー スに分類された取引のオンバランス化を要求し,資産・負債の追加認識を促し,財務制限条項への抵触も懸念される。 本年度は,IFRSsの適用が負債契約に有意な影響を与えたか,また,IFRSs適用が財務会計の契約支援機能の強化に資するかについて検討した。 財務会計の契約支援機能に関する研究は,財務制限条項への抵触を避けるため,経営者が利益調整を行うかに関連する。負債契約をめぐる経営者の利益調整行動に関する内外の先行研究をレビューするとともに,IFRSsが負債契約に与える影響について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我が国の財務制限条項は,1980年前後に大蔵省が行政指導の一環として設けられ,シンジケート・ローンの普及により2000年以降,財務制限条項が付されるケースが増えていることを指摘した。また,英国では金融機関が貸し付けを行う際に,財務制限条項が付されることが多いことを明らかにした。 負債契約において債務制限条項を約定する場合,条項違反の確率が高いほど,経営者は利益増加調整を行なう,すなわち負債契約仮説を,修正ジョーンズ・モデルまたは利益分布のヒストグラム作成により検証した先行研究をレビューした。 リース取引のオンバランス化が有利子負債/EBITDA,流動比率,当座比率,インタレスト・カバレッジを通じ,財務制限条項に与えた影響についても検討した。欧州財務諮問グループのIFRS16の財務制限条項に関するフィードバック・レポートについても吟味した。 IFRS適用日本企業の財務制限条項に関する開示状況を概観し,デフォルトのリスクが低いIFRS任意適用企業は銀行の監視下に置かれず,財務制限条項が付されるケースが稀であることを析出した。これらの研究の成果を平成29年度の日本会計研究学会で報告し,報告要旨を学術雑誌『会計』に掲載した。
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今後の研究の推進方策 |
資産・負債の公正価値測定を多用するIFRSは,利益の振幅を拡大させ,1株当たり利益,EBITDAを変動させると批判される。資産・負債アプローチの浸透は,損益計算書上の金額を計算要素とする項目間比率の利用頻度を変化させないが,貸借対照表上の実績値・項目間比率の利用頻度を増加させたと推計される実証結果が報告されている。 リース会計基準だけでなく,資産・負債の公正価値測定を要求する会計基準が財務制限条項に対して,どのような影響を与えるかが次年度以降の研究課題である。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会発表(広島大学)にかかる旅費の節約のため,自由席を利用したことなどにより,数千円の差額が生じた。次年度には当初所要額に即して支出する。
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