研究課題/領域番号 |
16K04010
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
片岡 洋人 明治大学, 会計専門職研究科, 専任教授 (40381024)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | レベニューマネジメント / 中期経営計画 / サービタイゼーション / 製品原価計算 / 原価計算対象 / 原価計算基準 / 収益性分析 / 収益ドライバー |
研究実績の概要 |
本年度は、わが国の優良企業で取り上げられているレベニューマネジメントの実務に関する諸問題を明らかにするために、複数の企業を訪問し、企業実務における各業務担当者が直面している問題点を調査した。とりわけ、本年度は、製造業のサービス化という収益獲得パターンの変化と、企業の戦略や中期経営計画との関係に重点を置いた。 伝統的なレベニューマネジメント研究では「異なる顧客には異なる販売価格」という指導原理の下で収益源泉の相違を見出し、状況に応じた適切な販売価格設定(「差別化販売価格設定」)を行っていた。しかしながら、伝統的な議論では、割引・値下げの差別化販売価格設定に終始していたに過ぎない。 その一方で、現代の製造業者は、競争の激化を受けて、ハードウェアの提供事業者からソリューション・サービスの提供事業者へ、といった収益モデルの転換を迫られている。このような製造業のサービス化が「サービタイゼーション」である。サービタイゼーションにも少なくとも2つの類型が見られ、「機能を売る」ケースと「知財を売る」ケースがある。いずれも従来型の製品やサービスを単体で提供するのではなく、顧客ニーズに合致するように製品とサービスとを組み合わせた収益モデルを構築している。 さらに、企業が持続的な収益モデルを構築するためには、企業の戦略や中期経営計画が大きな役割を果たしている点に着目してよい。収益ドライバーには、長期的視点と短期的視点によるものとが存在する。それが収益モデルの構築とどのように結びついているのかを検討することは重要な課題であると言える。 以上より、伝統的レべニューマネジメント研究では見られなかったような、企業戦略や中期経営計画とレベニューマネジメントとの関係や、新しい収益モデルの出現に関する会計上の諸問題を取り扱う必要性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、レベニューマネジメントにおける先行研究と、先行研究の分析と複数企業へのインタビュー調査を実践することによって、学会報告および学術論文執筆のための重要な資料を収集することができた。とりわけ、企業から、レベニューマネジメントの前提となる製品原価計算システムおよび「原価計算基準」に関する所見や資料、および製造業のサービス化に関する所見を聴取できたことは大きい。 このような調査および先行研究レビューを踏まえ、本年度には、学会報告を1件、および学術論文を4件(査読有1件・査読無3件)という研究成果を発表した。いずれも、原価計算対象である製品・サービスを媒介として、収益モデルと収益獲得のパターン(実証的および理論的・定性的アプローチ)、製品原価計算のパターン(理論的・定量的アプローチ)、および「原価計算基準」にみる制度的ルール(実証的・定性的アプローチ)について詳細に検討しており、いずれも今後の研究への展開可能性を示唆している。 その一方で、平成30年度における研究報告および学術論文の投稿への準備も着実に進めることができた。とりわけ、アメリカ会計学会(AAA)における2018年全国大会報告をはじめとした海外における学会での研究報告へ向けての準備や、内外の学会ジャーナルへの投稿へ向けた論文執筆の準備も順調である。 このように、昨年度に引き続き本年度においても、収益性分析(製品原価計算)の視点に立脚して、より良いレベニューマネジメントを実現するための各企業の取り組みについて詳細に検討することができ、また、様々なアプローチによる研究成果を発表することができたと言える。さらに、最終年度へ向けた研究の蓄積を確実に行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度(2017年度)は、本プロジェクト2年目であり、前年度に引き続き、わが国を代表する優良企業で取り上げられているレベニューマネジメントの実務に関する諸問題を明らかにするために、先行研究を詳細に分析するとともに、複数の企業を訪問し、企業実務における各業務担当者が直面している問題点を調査した。2018年度は本プロジェクトの最終年度であるが、これまでと同様に、継続して複数企業へのインタビュー調査を進め、理論的なアプローチと実証的なアプローチとの相互作用を引き出すことが重要であると考えている。 第1に、「製造業のサービス化にみる会計上の諸問題ー収益モデルのイノベーションー」『会計論叢』13号において提唱したように、収益モデルが多様化している中で、新たな収益モデルにおける会計上の課題は多く、とりわけ、製品原価計算およびIFRS 15号からみると、新しい収益モデルに適応した会計デザインのためには、収益獲得の単位の本質をありのままに写像することが重要であるといえる。 第2には、各企業において、収益獲得パターンや収益モデルをどのように中期経営計画のなかで位置付けているのかを改めて検討する必要がある。収益ドライバーの検討は、顧客に対する価値提案にも直接的に影響を及ぼすことになる。「原価<販売価格<顧客知覚価値」の関係を構築するためには、企業の戦略や中期経営計画と結びつけて議論することが重要であろう。 今後、レベニューマネジメントに対する各企業の取り組み、価値提案、収益モデルの類型化の方法に合わせて、いかにして適切な製品原価計算と収益性分析とを行うことができるのか、「中期経営計画」と「サービタイゼーション」に着目し、研究を発展させることが可能である。
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次年度使用額が生じた理由 |
図書を予想よりも安価に調達できたため。 次年度の図書調達に使用する計画である。
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