開示情報の内容には,制度的な規制,ビジネス自体の内容,企業の開示政策など多様な要因が影響するが,それらを反映した開示情報の質に深く関連する基本的な特性である複雑性に注目して,開示情報の複雑性と情報の非対称性の関係を分析した。 複雑性を測定するための手法をXBRLによる提出書類をもとに提案し,そのうえで,複雑性の測定値(代理変数)と情報開示直後の株式の流動性(ビッド・アスク・スプレッドで代理)の関係を調査することによって,開示情報の複雑性と情報の非対称性の関係を分析した。その結果,財務諸表情報の複雑性が高いほど、情報処理コストが上昇するため、投資家間における情報格差が生じにくくなり、Avdis and Banerjee (2019) によって主張された逆選択効果が支配的となっていることを明らかにした。これに関する研究成果は,論文「財務諸表情報の複雑性と株式流動性―XBRLを用いて測定した複雑性と決算発表直後の投資家行動―」として学会誌に投稿した。 これに加えて,裁量的な会計行動の把握のための重要な測定値(代理変数)である異常発生項目額を算定するために必要となる,正常発生項目額の推定モデルについて,異常発生項目額の推定パフォーマンスという観点から分析した。具体的には,先行研究を参考にして考えられる複数のモデルについて,シミュレーションによって異常発生項目の推定パフォーマンスにおけるモデル間の優劣を評価した。また,過去10年間にわたる利益訂正の発生事例の中から経済的に重要性が高い事例をどの程度事前に異常な会計行動をどの程度検出できるか,という視点から,モデルのパフォーマンスを評価した。
|