研究課題/領域番号 |
16K04017
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
東田 明 名城大学, 経営学部, 教授 (50434866)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | 環境マネジメント・コントロール・システム / 温室効果ガス削減 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,環境経営戦略遂行のための環境マネジメント・コントロール・システム設計について考察することである。長期的な環境経営戦略を実現するための仕組みについて,特に業績指標の選択と利用について明らかにすることに焦点を当てている。 平成29年度は,過去に実施した質問票調査から得られた情報に基づいて,温室効果ガス(Greenhouse Gas: GHG)削減に取り組む企業によるGHG指標の利用の影響する要因と,GHG指標の利用がGHGパフォーマンスに与える影響を分析した。ここでは,GHG情報の利用について情報フローに注目し,フィードバック単独モデルと,フィードバックとフィードフォワードの統合モデルの2つを想定した。 分析の結果,影響要因として想定したステイクホルダー,経済的動機,経営者の関与はいずれもフィードバック利用には直接的影響が見られなかったが,フィードフォワードを考慮したモデルにはステイクホルダーと経営者の関与の影響が見られた。戦略的にGHG削減に取り組むためには,従来のフィードバック利用だけでなく,戦略の見直しを含むフィードフォワードの利用が想定されるが,そうした企業はステイクホルダーの影響を重視していることがうかがえ,またそのような情報利用を行うためには経営者がGHG削減について積極的に関与することが重要と考えられる。また情報利用がGHGパフォーマンスに与える影響については,フィードバックモデルおよびフィードフォワードを考慮した統合モデルの両方で有意な影響が見られた。しかし,GHG排出量を用いたGHGパフォーマンスに与える影響についてはモデルの決定係数が低く,先行研究と同様の結果が見られた。GHGパフォーマンスをどのように測定するかについては今後の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究現状は当初の予定よりやや遅れている。研究目的として長期的な環境経営戦略に取り組む企業のマネジメント・コントロール・システムを明らかにすることをあげたが,長期的な取り組みを分析するためのフレームワークの構築に時間を要した。これが研究の進捗が遅れている最大の要因である。しかしこれまでの研究によって,パラドックス理論を用いた分析フレームワークの構築を進めており,ある程度の目処がついた。今年度はパラドックス理論に基づき,特に長期志向と短期志向の間でトレードオフなどが生じる場合に,長期的戦略をどのように維持・遂行するかに焦点当ててインタビュー調査を実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
近年,Science Based Targetなどから科学的知見に基づく長期的な温室効果ガス削減目標の設定が求められている。また,資源生産性向上のためのマテリアルフローコスト会計(MFCA)の導入企業において,長期的視点を持ってマテリアルロス削減に取り組むことの重要性が指摘されている。こうした長期的戦略を実現するためのマネジメント・コントロール・システムについて明らかにすることを目指す。上記で説明した通り,長期志向と短期志向の間で生じるパラドックスをどのように管理し,長期的戦略を維持するのかに焦点を当てて,インタビュー調査を実施する。インタビュー調査対象企業は,過去に実施した質問票調査回答企業のうち,温室効果ガス削減のための長期計画を持つ企業を対象とする。またこれに加えて,Science Based TargetやRE100に参加することを表明している企業も加えて,インタビュー調査を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じている理由は,上述の研究計画の遅れと,予定していた国際学会への参加が実現できなかったためである。研究計画の遅れの要因は長期的環境経営戦略推進のためのマネジメント・コントロール・システムを分析するためのフレームワークの構築に,予定より多くの時間を要したためである。しかし,パラドックス理論を用いて分析することで,長期的な戦略と短期的戦略の間でトレードオフが生じた際に,この問題にどのように取り組むのかについて焦点を当てることで,研究目的に貢献できることが見えてきた。したがってこの視点から,インタビュー調査を実施し,分析を進めて行きたい。また長期的視点をどのように維持するかや,長期的視点を有する企業と短期志向の企業の間でマネジメント・コントロール・システム構築にどのような差異が見られるかなどについて,日本企業に対して業種を問わずに質問票調査を行い,広い業種の企業に対して調査することも検討している。また,国際学会での報告について,当該年度は参加を予定していた学会と同時期に校務に関わる出張や他の研究プロジェクトの出張が重なったことで参加できなかった。2018年は既に1つの学会に申し込みをしており,可能であれば他に参加できる適切な学会を探す。
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