研究課題/領域番号 |
16K04028
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研究機関 | 阪南大学 |
研究代表者 |
堀内 史朗 阪南大学, 国際観光学部, 准教授 (90469312)
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研究分担者 |
松坂 暢浩 山形大学, 学士課程基盤教育機構, 准教授 (10649726)
鎌田 剛 東北公益文科大学, 公益学部, 准教授 (50438595)
村松 真 山形大学, 東北創生研究所, 准教授 (50560588)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 地方創生事業 / 人口減少社会 / ネットワーク / 転出 / 定住 / インターンシップ / フィールドワーク / 地域理解 |
研究実績の概要 |
本研究は、若年者が条件不利な環境に置かれた地方に定住するための条件を明らかにすることを目的としている。 昨年度におこなった山形大学在学生に対する質問紙調査のフォローアップ調査で、回答者たちが在学中に体験した地域志向授業やインターンシップなどの経験が、彼らの卒業後の就職先(山形県~東北地方~東京など)に与える影響を調べている。2019年3月に、102人の卒業生・進学生のデータ回収を行った。本格的なデータ分析はこれからであるが、地域を素材にしたフィールドワークの受講経験があると、山形県・宮城県に本社のある企業に就職する傾向が高くなることがわかった。ただし統計的な有意差はない。他の変数も統制して、また今年度末に得られるデータも勘案して引き続き分析を続ける計画である。 関連研究として、山形県飯豊町の若年労働者が地元に定住する意欲をもつ条件について、質問紙調査でデータ回収し、分析したところ、仕事の給与などに不満を持ちつつも、仕事を通じた成長に満足している労働者の定住意欲が高いことがわかった。山形大学を含む複数の大学で質問紙調査をおこない、インターンシップを受講した学生のキャリア意識が、受講したことがない学生よりも高い傾向があることがわかった。ただし理系大学生の場合は実験などがインターンシップ参加を阻害する傾向もわかった。これらの成果は学会誌に報告済みである。このほか、地の拠点大学による地方創生推進事業の進捗、新たに始まった地方創生インターンシップなどについて情報収集を行い、その傾向を踏まえ、地方でのフィールドワーク経験が学生の成長などに与える影響について論文を執筆中である(依頼原稿で書籍に掲載予定)。また複数の地域に拠点を置く生き方が地方の人口減少に歯止めをかける可能性について分析した社会シミュレーション実験を行なった。学会発表をすませ、論文を投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に配布した138件の調査サンプルのうち、102件が当人の卒業に合わせて回収できた。残りの36件はいまだ在学中で、2020年3月に卒業予定である。また追加してのデータ収集も行っている。山形県に定住したか転出したかだけだと統計的な有意差が出ないかもしれないが、様々な質問を行っているので、在学時における地域理解と卒業後の展開について何らかの関連性は見いだせると考えている。 山形大学卒業生の地方定住調査と並行して、社会人の地方定住についての調査も進めている。一つは、大阪に定住する若年アーティストの調査をおこなった。関西のアーティストの場合、東京へではなく、海外や他の地方部へ移動する選択肢があること、自身の芸術活動の継続が主要因であることなどが分かった。また東京に在住の高齢者へのグループディスカッションで、将来的に東北地方へ移住する可能性を聞いたところ、気候条件の厳しさ、類縁の無さなどから躊躇する人が多数であった。山形もとい東北地方を定住の選択肢として有力になるためには、労働条件だけでなく、サブカルチャーや生活のしやすさが重要であることが示唆される。 また人々の移動と定住が地域社会に与える影響を分析する社会シミュレーション実験を行っている。現在査読中の論文が一本あるが、一箇所ではなく、二箇所に拠点を置く生き方が、かえって地方創生に結びつく可能性が分かってきた。今後の調査において、この考え方を踏まえた聞き取りを行うことで、定住人口だけでなく交流人口も視野に入れた分析ができると期待できる。 いっぽう、地の拠点大学による地方創生推進事業が今年度で終了となるため、大学または自治体による若年者の定住促進政策に影響が出るかも知れない。地方創生インターンシップ事業についても研究対象としているが、まだ全容がわからないため、その分析の結果はこれからである。
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今後の研究の推進方策 |
山形大学で在学中の学生ないし卒業した社会人へのインタビューを行い、若年者が山形県に定住する、あるいは山形県から転出する論理を抽出する。地の拠点大学による地方創生推進事業が今年度で終了する。いっぽうで地方創生インターンシップ事業が始まっている。こうした最新の地方創生関連の事業を点検しながら、学会や研究集会などでの情報収集を行う。そのようにして得られた知見をもとに、すでに回収済みのデータを分析して、どのような経験が地方定住に影響するのかを明らかにする。 山形県に拘らず、広く人々の地方定住に関連した調査を行うことで、研究の裾野を広げる。今年度は、代表者が阪南大学国際観光学部に所属していることを活かして、大阪府就業促進課や鳥取県若桜町などとも連携して、西日本の地方部に若年者が定住するための条件などについても質的調査・量的調査を並行して研究を進めていく。また代表者・分担者が、それぞれ各地で展開されているインターンシップや高齢者の移住事業、企業活動などについて引き続き事例調査を続ける予定である。 げんざい学会誌に投稿中の社会シミュレーション実験を発展させて、大学と企業の交流によって、双方が人材育成と就業マッチングにも成功するための条件を明らかにする社会シミュレーションを構築・分析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
山形大学在学生・卒業生への大規模な聞き取り調査をおこなう予定だったが、日程の調整がつかなかったために次年度使用額が生じた。今年度は、山形大学の在学生・卒業生だけでなく、ひろく地方で働き生活する人々、または東京で生活しつつ地方への定住を視野に入れた人々を対象とした聞き取り調査を実施し、量的調査の補完をおこなっていく。
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