本研究の目的は、教育・家族・職業という各々の領域におけるリスクを下降移動として包括的にとらえ直し、実証的知見に基づいて、社会移動研究の再検討と刷新をはかることにある。 最終年度となる平成30年度には、以下のことを進めた。まず、前年度に完了に至らなかった独自の社会調査を実施した。今回の計画のうち、家族や職業にかんするリスク(例:離別、離職など)は、公開されている大規模調査でもかなりの程度カバーできていたため、独自調査は社会的背景と中退選択との関連や過程を精査するためのデータ収集にとりわけ注力することとした。 調査データの一次分析により、以下の諸点を明らかにした。すなわち第1に、高等教育レベルにおいても、出身階層は中退選択と関連がみられることである。これは他のデータでの解析結果(三輪・下瀬川 2017)とも整合的であった。第2に、ただしそれは社会関係資本により説明されるかといえば、結果はそれほど明瞭ではなかった。この点はさらなる検証を要する。 既存データの二次分析により、離婚とかかわる配偶者選択基準の変化を検討した。パネルデータを用いた検討によると、思いのほか、配偶者選択基準は個人内で変化をしないことがわかった。個人間での異質性としての要素のほうが大きいということである。さらに、家族構造と世代間移動との関係を検討し、出生が早いほど移動が閉鎖的であることを明らかにした。これは、下降リスクを減じているともいえるが、他方では出身階層の束縛から逃れ難いことも同時に意味しているといえる。
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