本研究の目的は、アメリカ社会学者であるP.A.ソローキンの利他主義研究の着想が、ロシア時代の著作や思想の中にあるという仮説を検証することにあった。そうした視点は、これまでのソローキン研究史の中では軽視されてきた。また利他主義という用語それ自体も、これまで社会学の中心的課題に位置づけられてきたとは到底いえないものである。しかし2000 年代以降の研究状況は一変した。ロシアを始めとする世界の社会学において、ソローキン研究の再考の機会が訪れるとともに、利他主義への関心は急速に高まっている。アメリカ社会学会にもそれは飛び火し、アメリカ社会学会における利他主義セクションの設置にいたった。そうした成果を吸収すべく、本研究では、ロシアの主要都市(サンクト・ペテルブルク、モスクワ、ボログダ)はもちろん、チェコ(プラハ・ブルノ)、さらには彼の社会学を貪欲に吸収したイタリアにまで足を伸ばし、彼の影響圏を確認することができた。当初は、生地のスィクティフカルでの資料を中心に研究を進めるつもりであったが、それに加えて亡命知識人としての足取りを追うことが必要となったため、調査対象となる地域を広範囲に広げた。その成果は近刊予定の単著『利他主義社会学の創造―P.A.ソローキン最後の挑戦』としてまとめられつつある。とりわけ現代のロシアやイタリアのソローキン研究の動向と並行的に進められていることから、今後とも、現地の研究者たちとの共同研究へと展開していくことが期待できる。
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