最終年度である本年度においては、これまでおこなってきた本プロジェクトの内容をまとめながら、論文執筆や学会報告などの成果公開などに力を入れて進めてきた。その結果、多数の成果を公刊することができ、さらには今後にも、今回の調査データを活かす形での新たな研究進展が予測されうる内容となった。 そうした成果のなかでの中心的論点を記すならば、次のようになる。本研究からは「経済発展によってマニラの都市貧困層の生活が底上げされる」という一般的な主題に対して、それとは逆に「経済発展の過程で新たな困窮が形作られる」点が示された。たしかに経済発展を通じて、マニラには数々のショッピングモールや高級住宅街が形成され、車道を走る車も外国産の高級車が目につくようになった。だがそれは消費に意欲的な中間層の姿であって、それが全体社会の変化を表しているわけではないことを「貧困層のさらなる貧困化」の事例から描出されたのが、本研究である。 また、貧困地区解体について、単なる事例分析のみで終わらせるのではなく、ジェントリフィケーション論や社会的受苦論(Auyero & Swistun 2009)といった世界的な最先端の研究動向と接合して枠組みを洗練させることも、本研究の大きな意義であった。しかしながら、今年度の研究では、こうした理論的フレームを、そのままマニラの事例に接続させることは、難しいという新たな課題も見つかった。どのように、本研究で得られた具体的データを理論化するかについては、持ち越された研究課題となった。
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