本研究からは「経済発展によってマニラの都市貧困層の生活が底上げされる」という一般的な主題に対して、それとは逆に「経済発展の過程で新たな困窮が形作られる」点が示されることが、一定程度、示された。たしかに経済発展を通じて、マニラには数々のショッピングモールや高級住宅街が形成され、車道を走る車も外国産の高級車が目につくようになった。だがそれは消費に意欲的な中間層の姿であって、それが全体社会の変化を表しているわけではないことを「貧困層のさらなる貧困化」の事例から捉えることができた。このような観点から、実証的に途上国都市を論じた著作は希有であり、そこに本研究の独創性があると言える。
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