最終年度は本研究が先行事例とする台湾の楽生療養院、および国内調査地として沖縄の宮古南静園、鹿児島の星塚敬愛園、群馬の栗生楽泉園、東京の多磨全生園、青森の松丘保養園を訪問した。 台湾の楽生療養院は、入所者が新病棟と旧居住区とに分断される結果にはなったものの、新たに出発した総合病院の経営が順調に推移しており、医療・介護スタッフの選任も順調に過不足なく進められていた。また療養所の運営は政府補助金よりも病院収益で賄われている部分が多く、療養所そのものに潤沢な資金力があり、提供されている医療その他サービスに対する入所者の満足度も非常に高いものがあった。紆余曲折はあったがモノレール駅の新設によって台北市や国際空港からのアクセスが向上し、所在地周辺の地域経済も発展した。また新病院の建設にあたって植民地時代の文化財保護という社会運動が行われたことで世間やメディアからの注目を集めたことで、それまで社会的に看過されてきた療養所の将来問題を世に問うこととなり、結果的にそれが現在の順調な病院経営にもつながった可能性が考えられる。 翻って日本の療養所は所在するそれぞれの地域特性によって、今後の将来構想や転用について大きな課題を抱えている。市街地からの距離的な問題はどの療養所も等しく抱えているが、そこへの交通アクセスについては今後の療養所のあり方を考えるにあたって、良くも悪くも大きなポイントになることが明らかになった。すでに障碍者施設や保育園、特養を誘致している療養所がどのようにそれらの施設を誘致し、そして誘致後の施設と療養所がどのように関わっているのかという点も、今後の新たな検証課題として加えるべきだと考えられる。
|