研究課題/領域番号 |
16K04054
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
井上 孝夫 千葉大学, 教育学部, 教授 (10232539)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 河川敷 / 旧河川法 / 新河川法 / 河川敷ゴルフ場 |
研究実績の概要 |
今年度は「コモンズとしての河川敷」という大枠のもとで、明治時代の河川法(旧河川法)成立以降の河川敷利用の実態を解明していくことを主な課題とした。そこから浮かび上がってきた知見は以下のようなものである。 まず、旧河川法のもとで、河川敷は公有化され、私権は及ばないとされたが、管理の実質が県知事に委ねられたため、恣意的な運用の実態があった。特に民有地が河川敷に組み込まれた地域においては河川敷内にゴルフ場や遊園地などの施設が設置される傾向があり、公有化の理念からの乖離もみられた。次に、太平洋戦争後の新憲法体制のもとで成立した新河川法のもとで、河川敷の利用についても民主化がはかられた。これについては特に、急速な都市化や1964年の東京オリンピック開催を背景にしたスポーツ施設の拡充の要求があった。国会でも二つの委員会で河川敷開放の決議がなされている。当時の建設省はそれを踏まえて、河川敷の占用準則を設け、主要河川で河川敷開放計画を定めた。だがそのような計画は必ずしも順調にはすすまず、既得権化した占用主体側からの訴訟が提起された場合もあった。裁判は占用側の敗訴になったが、その間は事態があまり動かずに終わった。1993年に刊行された総務省行政監察局の「都市内河川に関する行政監察結果」はその実体をよく伝えるものとなっていて、河川敷利用の法的理念と実態との乖離を示すものになっている。 以上のような河川敷開放過程の歴史的経過から、コモンズは理念としては成立していても実態は必ずしもそのとおりにはならない、というとが明らかとなった。そのうえで、実態を理念に近づけるためには、利用のための切実な要求が必要となる、という点が示されたのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度までに、主として河川敷の利用にかんして、明治時代の河川法(旧河川法)の成立以降の実態を調査した。河川敷利用が大きく変化するのは1960年代半ば、新河川法の成立や東京オリンピックの開催を契機として河川敷運動場の整備への要求が高まったことに起因する。だがその一方で、既存の占用主体からの抵抗もあり、河川敷の利用は新河川法が想定したかたちには必ずしもならないという現状がある。そのギャップについての解明が次の課題となったわけだが、校務の多忙化などもあって、関係機関への聞き取りをすすめることが困難になった。 およそ以上のような現状のもと、1990年代後半以降現在に至る河川敷利用の実態調査が未着手になっているため、進捗状況は「やや遅れている」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
一年間計画延長した今年度は、次の二つの課題を設定している。 第一に、河川敷の占用問題について、1993年に公表された総務省行政監察局の結果報告書以降の動向を検討することである。この点については国土交通省や河川管理事務所への聞き取り調査を実施して、過去25年間の河川敷占用の実態を把握することにつとめる。それと併せて、河川敷を占用しているゴルフ場関係者も対象に含めた聞き取り調査を実施して、現行の河川法の精神に基づいた河川敷ゴルフ場の今後のあり方を探っていく。 第二に、コモンズ理論という枠組みの理論的整備をさらに精緻化していくことである。コモンズの形成を土地の大規模な私有化からの開放過程として把握するとき、その対象として例えば大企業の私有地を実質的に開放してコモンズ化していくという過程もみえてくる。また、国や地方公共団体が囲い込んだまま未開放になっている土地を自由利用できるようなかたちで開放するという過程もある。これらについて適切な事例を選定して、実態調査を試みたい。 以上の二点を踏まえて、すでに過去三年の間にまとめた研究成果と併せて、現代コモンズ理論にふさわしい研究結果を体系的にまとめ、報告書を作成していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
校務の多忙化により、研究計画の遅れが生じ、予定していた聞き取り調査、文献調査、研究成果の体系化、印刷、製本などの作業が未達成になっているため、次年度使用額が発生した。 今年度は、聞き取り調査のための旅費、文献調査のための文献の購入費、研究成果のとりまとめのための印刷製本費、そして成果の配布のための通信費に使用する。
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