研究課題/領域番号 |
16K04055
|
研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
川上 裕子 お茶の水女子大学, グローバルリーダーシップ研究所, 特別研究員 (20612196)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 農業協同組合 / 農村保健 / 地域福祉 / 産業組合 |
研究実績の概要 |
本研究は、農業協同組合(以下、JA)による農村における保健医療活動ならびに福祉活動の形成・展開過程を歴史社会学的に考察することを目的とする。そこで、本研究では、文献研究とインタビュー調査によってJAとその前身である産業組合の保健・医療・福祉活動の制度面ならびに実践面の検証を社会保障制度に関する局面ごとに行う。今年度に行った研究を整理すると、次の通りである。 文献研究においては、全国厚生農業協同組合連合会において、全国および各県のJA厚生事業に関する沿革史を網羅的に収集した。病院運営や健康診査等の活動を中心に資料を読み込んだが、福祉活動については個別のJAや女性組織の沿革史で確認する必要を得た。 インタビュー調査においては、JA厚生連が運営するへき地医療拠点病院の病院長と島根県内JAの(元・現)職員複数人を対象に実施することができた。 これらより、JAが医療、保健、子育て、高齢者介護、そして生活全般にわたって、組合員に限定せず広くその地域に暮らす人々に行ってきた事業を生活問題の質的変化に沿って整理することができた。そして、地域のニーズや既存の資源の活用、当事者性、協同の精神という観点からは、JAが今後も地域社会における保健福祉事業の提供主体の一つとして大いに機能を発揮できることが推察された。 さらに、平成28年度お茶の水女子大学「若手女性研究者支援」プロジェクトの助成を受け、シンポジウム「農業協同組合による保健福祉事業の歴史-地域住民の生命と生活はいかに守られてきたか」を開催した(平成29年1月)。このシンポジウムは、本研究と密接に関わるものであり、企画・実施過程において、史的展開からみた農業協同組合による保健福祉事業の今日的意義に関する知見を得るとともに、研究者・実践者とのネットワークをつくることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
史資料の収集と分析を計画的に遂行している。インタビュー調査に関しては、対象者の選定と依頼にあたって協同組合論を専門とする研究者からの支援を得て、島根県のJAの(元・現)職員複数人に実施し、本研究を推進する上での知見や資料を多く得ることができた。ただし、インタビュー対象者の活動時期が1990年代後半以降に限定されているため、次年度は時代を遡って活動内容を聴取できる対象を探していく必要がある。 また、今年度の成果を国際学会で発表し、参加者とのディスカッションの中で、日本の農業協同組合の独自性への気づきや最新の研究動向を得ることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
当初計画通り、JAの保健・医療・福祉活動の制度面・実践面の検証を行っていく。研究初年度は資料へのアクセスやインタビュー対象者の選定に関して容易さから対象時期が近年に偏ったが、研究2年目となる平成29年度は、研究計画で設定した局面に沿って検証ができるよう、調査方法に工夫をしていく。 具体的な研究活動は次の3点である。第一に、平成28年度末に実施したインタビュー調査の結果を整理し、新たに収集の必要性が生じた資料について収集し、分析していく。組織の合併や女性組織の活動の変遷については、とくに注目していく予定である。第二に、JAの行ってきた保健・医療・福祉活動の対象時期と範囲を広げ、対象者の選定を行い、インタビュー調査を行っていく。第三に、研究成果を国内外の学会と学会誌へ発表するための準備を行っていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ予定通りの助成額を使用した。次年度使用額が生じたのは、平成28年度末に実施したインタビュー調査のテープ起こしに充当できる程の残額ではなかったため、次年度に繰り越すという判断をしたためである。
|
次年度使用額の使用計画 |
主要な使途は、当初計画通り、図書・文献の購入費用や調査旅費、平成28年度分も含めたインタビュー調査のテープ起こし費用となる。
|