子育て世帯のワークライフバランスをめぐる経験は、労働市場、福祉国家、文化といったマクロな要因によって条件づけられている。本研究は日本と台湾の統計とインタビューの分析から、福祉国家がワークライフバランスやその結果としての出生率に大きな影響を及ぼしていることを示した。 具体的には、①労働市場(労働時間)と福祉国家(保育サービス)は、ワークライフバランスと出生率に影響を及ぼす。②福祉国家(育児休業)は、労働市場のタイプによって異なる効果をもたらす。③福祉国家(保育サービス)は、祖父母による孫育てを抑制するのではなく促進する。④文化(外食をどのように利用するか)も部分的に関連する、などの点を明らかにした。 台湾では十分な保育サービスなしに女性の労働力化が進んでおり、それがワークライフコンフリクトやその結果としての少子化につながっている。日本と台湾の比較分析から明らかになったのは、福祉国家の支えなき個人化は持続不可能だということである。新興福祉国家との比較により、福祉国家のワークライフバランス効果が一層明瞭になったと言える。 なお、最終年度には、福祉国家の日台比較の延長線上に先輩友人の助力を得て、編著『新・世界の社会福祉7――東アジア』(旬報社、中国・韓国・台湾の福祉に関する19編の論文で構成、全572頁)を刊行することができた。また、本研究の成果の一部を盛り込んだ論考「福祉から見た台湾の国家形成」(田中明彦・川島真編『20世紀の東アジア史』東京大学出版会、所収)も近刊予定である。
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