2019年度はインドでの補足調査と研究成果の公表に注力した。年始の補足調査では、グジャラート州アフマダーバード市に拠点をおくNGO、Saathの職業訓練センター3箇所にて美容師養成や小売業管理コースの観察をおこなうとともに、生徒や講師陣そしてコース修了者に聞き取りを実施した。また、受講生たちが居住する低所得地区を訪問することで就業状況や居住環境を街区レベルで観察した。参加動機やコース修了後の就職との関連を検討するにはいたらないものの、受講生の社会経済状況をSaath作成のデータベースをもとに分析を続けている。 最終調査として、3月後半に各コースの修了生たちの就職先の人事担当者への聞き取りを予定したが、コロナ禍のあおりを受けて渡印を断念した。 なお、質的調査の一部を年末の第45回インド社会学会全国大会(研究部会16「仕事・労働・社会」)にて報告した。報告では、カーストの留保枠という恩恵を受けての公務員という親世代が望むキャリアではなく、民間企業への就職を選択した低所得層の若者たちの葛藤や、「中産階級」としてのアイデンティティと隣人・友人との消費嗜好や行動における差異化、個人化された消費の維持を目的とした就労意欲と新自由主義的な規律の受容を検討した。報告に用いた原稿は現在、海外の社会学系のジャーナルへの投稿を目標に加筆修正を施している。キャリア選好をめぐる世代間意識の齟齬は、民間企業が伸長するインドの大都市圏において低所得層かつ低カーストのなかでも社会的上昇の機会を獲得する若年層の今日的特性を反映している。また、労働・消費の両側面にみられる階級的アイデンティティの変化は、彼/彼女らの過剰労働や誇示的消費によって支えられており、そこに学歴や英語運用能力などの面で障壁に直面する調査対象者の葛藤が垣間見える。
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