研究課題/領域番号 |
16K04081
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研究機関 | 山梨県立大学 |
研究代表者 |
堤 マサエ 山梨県立大学, 国際政策学部, 名誉教授 (50105970)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 農村家族 / 持続と変動 / 長期反復調査 / 直系制家族 / 世代継承 / 生活分離 / 家族変動 |
研究実績の概要 |
今年度の研究実績は、第一には、 6回にわたる長期反復調査資料の整理と活用保存に向けた作業、調査票原票の確認、照合と個別事例研究の資料整理を行った。膨大な資料のため、予算と費用の都合上、3分割して行うこととし、1992年、1997年資料の5235頁の詳細な生活記録を電子化し、活用可能にした。これによって、今日では得難い既存資料を保存、次の活用に繋げることが出来、資料の喪失を防ぐ作業が始動した意義は大きい。 第二は、行政担当者との意見、情報交換を行った。過去6回の調査から20年経過した今日、市町村合併を経験し、日本社会、地域社会が劇的な変貌を遂げたこともあり、確実に変化した統計資料の確認をし、さらに、対象世帯の概況を調査した。20年間で大きく世代交代していることは予想していたが、行政で確認した対象世帯の存否の状況は世帯主・夫世代108世帯のうち存命55、逝去44、不明8世帯であった。 第三は、直系制家族の持続を可能にする諸要因の解明に向けての調査準備、予備調査、聞き取り面接調査を行った。対象世帯のメンバーと行政担当者12人で「ぶどうとワインのふるさと・果樹農家に持続と発展・夢を語る会」としてグループ討論を行い、過去と将来の展望を議論した。その対象世帯の状況を確認するため住民票閲覧を行った。個人情報保護法が施行されて世帯単位でみることが出来ず、困難を極め、16世帯の確認ができなかったが、8世帯再度確認をした。その上で、世代継承をめぐる生活実態を明らかにするための準備として、対象世帯5事例、女性の地域活動リーダーについて訪問面接調査を行った。その聞き取りから、直系制家族の多様なあり方、従来の継承方法の内容が大きく変化している実態が観察され、今後の調査の意義と検討の重要性が浮かび上がってきた
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主な目的は二点ある。第一は2016年時点で過去50年になる既存の6回にわたる長期反復調査資料を整理、今日では得難い既存資料を保存、次の活用に繋げることである。これを通して、二点目は統計的に集計できない詳細な生活記録から世代継承がどのように行われてきたかの背景を見出し、単独世帯の増加、家族形態の縮小、その機能の崩壊が言われる今日、それとは異なる伝統的な日本家族である直系制家族の持続を可能にする諸要因を解明することである。 一つ目は、膨大な資料を電子化することによって進めている。資料は一度の調査で1世帯におよそ30ページ以上にわたる構造化された面接調査情報が107世帯、その他数回にわたる事例研究資料があり、少なくとも2万枚を超える当時の生活記録、農業経営、社会活動等の資料、面接調査記録がある。今後の活用につなげるために電子化するには時間と費用が必要であり、研究遂行期間の完成を目指して取り組み始めたところである。1960年代の資料はガリ版や青焼きのため、すでに劣化し始め不鮮明なところが多く、修正や鮮明化する時間が必要である。これから調査を実施する参考にするためにも調査年次の現代に近い方から行っている。幸い、情報専門家の援助が得られ、おおむね順調に進捗している。 二つ目は、今年度計画をした対象世帯の居住存否確認はできた。その上で、事例分析対象を選定し面接調査が可能な対象に課題の聞き取りを行う準備をすることであった。すでに一部選定対象世帯に20年間の変化の聞き取り調査を行うことが出来、この点は今のところ計画以上に進展している。研究全体はおおむね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策は、電子化作業と社会調査によって研究課題を遂行することである。従来からの研究課題である「農村直系制家族の持続と変動」の特に「持続」に焦点を絞り要因を解明するととともに、資料の電子化保存と活用を推進する。資料は費用と時間の関係上、研究期間内で分割して作業を行わざるを得ない。 第一回調査が行われた1966年当初、調査対象地は、何代にもわたって住みついている世帯が多い地域社会で、居住する家族の圧倒的大部分が直系制家族であるという条件を満たし、交通の便もある程度よく、地元の協力体制が得られやすい対象地域が選定された。そして、対象世帯は厳格な社会調査法に基づく手続きによって住民票から選定された。現代の社会状況からすると個人情報保護の関係で対象地、対象世帯の選定すら不可能な得難い資料である。このような貴重な資料の有効活用を目指す計画である。 農村家族に関する研究動向を辿ると現実の社会、とりわけ地域社会である農村の状況に影響され、対象、方法、問題関心が変化している。本研究は同一対象の長期反復調査資料を使用し、縦断的分析が出来ること、併せて国際比較が可能な横断分析の研究枠組みを設定している点に、今後の研究展開の方向を模索している。 研究目的を遂行するために、研究計画に沿って、既存の反復調査の整理、保存作業、面接調査から世帯構成、世代継承、農業経営、あとつぎ問題、子育て支援のあり方、親世代の介護と看取り、生活・経済的支援、世代間支援と家族の役割、権限配分の時系列的様相を見出し、それぞれの生活領域がどのように持続と変化しているか、特に持続の生活領域の背景と要因を明らかにする方策で今後の研究を進める計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査協力者への調査実査の依頼をするための打ち合わせ費用としていたが、次年度に行うことになったために使用しなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
調査協力者への費用の一部として予定している。
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