研究課題/領域番号 |
16K04091
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
植田 今日子 上智大学, 総合人間科学部, 准教授 (70582930)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 類似災害 / メルクマール / 災害経験の比較 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、常習性の災害(冷害と津波)と一回性の災害(福島第一原発事故)を経験した地域社会を考察の対象として、具体的な生活空間としての地域社会が、災害を経ることで培った経験知を(1)どのように後世に効力を発揮するかたちで【伝承・継承】できるのか、同時に(2)後世に意味を成すこ となく【無効化】させてしまうのか、双方の条件を明らかにすることである。 考察のプロセスとして、計画では3段階のプロセスを設定した。(1)地域社会(集落・大字など)の生活レべルの具象性を伴う【常習性の災害史】および【一回性の災害史:原発事故発生から二〇一九年度現在】をふまえる、(2)すでにどのような方法で常習的災害が伝承・継承されてきたのか把握する、(3)その経験知とは、どのような伝播の方法と実践を通して伝承されようとするのかを把握する三段階のプロセスであった。 昨年度は、福島での調査を当初の予定通り進めることができなかったが、日本でも有数の地震を常習的災害とする稀有な都市として、仙台市での災害伝承を記録し、一般書として刊行した(市との市民協働プロジェクトとして)。仙台市は東日本大震災の被害も甚大であった沿岸部を含み、都市部と沿岸部との被害の規模と性格の乖離を有していたという点が浮き彫りになった。また、地震という災害伝承にあたって、直近のメルクマールとなる類似規模の地震(仙台の場合は一九七八年の宮城県沖地震)が災害直後の行動を大きく規定していたことが明らかになった。さらに、直近の類似災害との状況の差異が大きければ、それが積極的に語られ、記憶されようとしていることも明らかになった。ただこのことの伝承については試みの緒についたばかりであり、今後の展開についてはさらなる考察を要する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新任地での初年度となったため、前任校での授業の兼ね合いもあり、時間配分をうまく行うことができなかった。ただし前任校で2014年度より仙台市と取り組んできたプロジェクト「街からの伝言板」の総括として仙台市の施設で展示の機会(2017年2月)があり、その準備に牽引される形で常習性災害の経験の伝播の考察について前に進めることができた。しかし一回生災害の考察については、福島での調査時間の確保が難しく、遅れが生じてしまった。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度は常習性災害を都市を舞台として検討することになった。残りの3年間では、津波と冷害という常習的災害の被災地において調査を進めたい。また、一回性の災害の伝承の考察として、福島県飯館村での調査を進めるとともに、すでに別プロジェクトで基礎的な調査を進めてきた沖縄県名護市屋我地島でのチリ地震津波と戦争経験の伝承も比較考察対象に加える予定である。 その理由は、以下の三点に集約される。まず一点目に、沖縄県が全県的に一回性の災害として地上戦を経験しており、70年以上を経た現在、その伝承の功罪を検討しやすい事例だからである。二点目に、離島である上記屋我地島(および古宇利島)では、常習的に台風や離島であるがゆえの途絶を経験してきた。加えて三点目に、屋我地島は1960年のチリ地震津波も被災しており、約60年を経ようという現在、その伝承方法を吟味するよき比較考察対象といえる。 昨年度の調査結果から改めて今後の研究の推進方策を述べれば、一回性の災害の伝承と、常習的な災害の伝承の比較は、同一事例地だからこそ比較に意味があるということであった。したがって一回性災害を津波常習地、冷害常習地、それぞれの地域社会の字単位の生活から、小さな災害史の延長上に位置付けたい。今後は詳細な地域の災害史を積み上げる過程をより一層重視し、調査を継続したい。
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