研究課題は「常習性災害と一回性災害の経験知の伝承・継承をめぐる社会学的研究」であったが、今年度は特に、後者、一回性災害に該当する原発事故の被災地での調査成果をまとめる期間となった。 原発事故によって生じた避難が、畜産農家にどのような被害をもたらしたのかを現地での聞き取りや資料収集をもとに明らかにしようとしてきた。当初は(福島第一原発から)20km圏内(富岡、浪江)の畜産農家への聞き取りから着手したが、20km圏内圏外とで同じ全村(全町)避難を強いられながら、政策が大きくことなっていたことに行き着いた。具体的には、牛を運搬したり販売することができた20km圏外では、畜産農家が迫られた選択は全頭殺処分(あるいは継続的管理を条件とした飼養)のみではなかった。しかし、実際には多くの畜産農家が20km圏内と同様の廃業に至っていた。 調査や学会発表でのやりとりを通して、この20km圏外と圏内との差異にもかかわらず、なぜ多くの畜産農家が結果的に廃業に至らざるをえなかったのか、また逆にこの差異によって、どのような影響の違いが20km圏内、圏外に生じているのかという問いに行き着いた。浪江町、富岡町、葛尾村、飯舘村での聞き取りから、その成果の一部を学会発表や論文で公表した。 平行して、一回性の災害として沖縄での聞き書きも行った。こちらは沖縄戦や戦後の米軍統治下の経験がその対象となるが、継承という課題に力点をおいたデータ収集となった。
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