研究課題/領域番号 |
16K04096
|
研究機関 | 国際基督教大学 |
研究代表者 |
池田 理知子 国際基督教大学, 教養学部, 教授 (50276440)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | コミュニケーション / メディア / マンガ / 語り部 / 解説員 / 展示 / 公害 / 資料館 |
研究実績の概要 |
本研究は、公害資料館を「メディアミックス」実践の場と捉え、様々なメディアが何をどのように伝えているのかを検証することを目的とし、メディアどうしがどのような相乗効果を生み出す/出さないかを考察していこうとするもので、事例として取り上げるのは「四日市公害と環境未来館」である。 2017年度は、資料館において公害を伝える重要な役割を担う「語り部」と「ボランティア解説員」に焦点をあて、彼女/彼らがメディアとしてどのようなコミュニケーションの場をつくり出しているのかを明らかにしようとした。特に両方を兼務している二人の人物の活動からみえてきたのは、公的な場である資料館において「語れない者」を生み出す力の存在であり、その力の作動に加担しているのは「語れる者」を固定的なイメージで捉えている私たちの先入観なのではないかということだ。こうした研究に多くの示唆を与えてくれたのが水俣病を伝える活動との比較であり、そのためのシンポジウムを四日市で開催した。また、広島平和記念資料館の伝承者の講話への参与観察および面接調査により、彼女/彼らがおかれている立場の特殊性がみえてきた。これらからわかってきたのは、当事者・家族であったとしても、公的な場で「語れる者」はそれぞれの場で恣意的に決められているということだった。 また、メディアの一つであるマンガについては、1970年代に多くのマンガで公害が取り上げられたことの意味を考察し、論考としてまとめた。 展示の分析については、昨年度から継続している公害と戦争とのつながりについての論考に加え、今年度は「病」が展示の場でどのように表象されているのかについても検証結果をまとめた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「語り部」と「ボランティア解説員」に関するフィールド・ワークと面接調査の結果は、発表論文としてまとめ、日本コミュニケーション学会九州支部大会で報告した。 マンガに関する分析も、前述したように論考として本の1章という形で発表した。当初の予定にあった、四日市公害マンガ『ソラノイト―少女をおそった灰色の空』の英訳は実現しなかったが、公害マンガがもつ伝える力については研究が進んでいるといえる。 資料館の展示の分析と考察は、「ミュージアムが語る戦争の記憶」と題した論文にまとめ、日本コミュニケーション学会九州支部の紀要に掲載された。また、公害病という病が資料館でどのように展示されているかを分析した結果は、日本ヘルスコミュニケーション学会で報告している。 以上の経過に照らし合わせて考えると、公害資料館を「メディアミックス」実践の場として捉え、様々なメディアを分析していくという研究においては、概ね予定通り推移しており、また成果も順調に上がっているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き公害資料館を構成するさまざまなメディアの分析を行っていく。今年度は特に「四日市公害と環境未来館」が独自におこなっている「エコパートナー」という制度について検証していく。「エコパートナー」として登録されている人たちが、どのように資料館と関わっている/いないのか、どういったメッセージを発しているのかを探っていく。 また、広島平和記念資料館の伝承者との比較を通して、「語り部」や「ボランティア解説員」のメディアとしての役割についても継続してみていく。 これまでそれぞれのメディアがどういう力を発揮しているのかを中心にみてきたが、今年度は最終年度ということに鑑み、メディア間の相乗効果のある/なしについても考察を進めていく。資料館が「メディアミックス」実践の場として市民に対して開かれた場となっているのかを考察していく。 そして、成果発表および研究内容の社会への発信も積極的に行っていく。水俣で公害を伝える活動を行っている人を四日市に招き、四日市で伝えている人たちとの意見交換を行うシンポジウム等を行いたい。そのなかで、自らの成果発表も行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者の所属先移動により、フィールドワークの回数が減ったことで次年度使用額が生じた。今年度のフィールドワークに充当する。
|