研究課題/領域番号 |
16K04096
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研究機関 | 福岡女学院大学 |
研究代表者 |
池田 理知子 福岡女学院大学, 人文学部, 教授 (50276440)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | メディア / コミュニケーション / 公害教育 / 公害資料館 |
研究実績の概要 |
本研究は、公害資料館を「メディアミックス」実践の場と捉え、様々なメディアが何をどのように伝えているのか、それらがどういった相乗効果を生みだしているのかを検証するものである。2018年度は資料館と公害マンガの二つのメディアが組み合わさることでいかなる力が発揮されうるのかに焦点をあてた。 これまでのところ、資料館に何らかの形でこのマンガが展示される機会はなかったが、本というメディアに収録されたことで四日市市内の公共および学校の図書館におかれ、多くの市民の目に触れることになった。とくに、定期的に資料館見学を実施し、語り部の講話に参加したり、解説員の展示説明を聞いたりしている教育の現場でのこの二つのメディアが果たす役割は大きいと考え、公害を伝えるための教育実践を行っている学校の取り組みを中心に検証・考察を行った。具体的には、四日市市の小学校で公害教育に取り組むある教諭の授業実践の分析を試みた。同時に、福岡県太宰府市の小学校で公害マンガを使って四日市公害を学ぶ授業実践の事例との比較も行った。資料館という場がない状況でのマンガを使った公害学習の事例では、社会科の授業であるにもかかわらず、まるで国語の読解の授業のようになってしまったという担当教諭の言葉からわかったのは、より重層的な学びを引き出す役割を資料館が担っているということだった。 ここまでの研究成果は論文としてまとめ、発表した。また、前述の二人の小学校教諭と資料館の語り部/解説員を交えての意見交換の場をシンポジウムという形で行った。研究代表者の本務校がある福岡市およびその近隣の小中学校の教員への参加を促したため、このシンポジウムは本研究の一般への成果発表を兼ねたものとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
マンガを使った公害学習の模擬授業に参加し、その授業の分析を行った。分析結果の一部を論文としてまとめ、日本コミュニケーション学会九州支部大会で発表した。また、その論文をさらに発展させた形の論考にまとめ、研究代表者が編集に携わった『グローバル社会における異文化コミュニケーション』のなかにそれを掲載した。したがって、メディアミックスという観点から資料館とマンガがどのような相乗効果を発揮しうるのかについては、当初の予定通り研究が進み、成果もあがっているといえる。 研究実績の概要でふれたシンポジウムでは、四日市の小学校での模擬授業と、四日市市と太宰府市の二つの小学校での実践報告がなされた。それに加え、語り部の講話や解説員の展示解説を含めた資料館をメディアと捉え、そこが公害を伝える場としてどのように機能しているのかも報告・議論された。公害資料館のみならず教育の現場でのマンガの使用を含めた、複数のメディアが重なり合うことの効果を考察するうえで、有益な意見交換がなされたといえる。そのシンポジウムの報告書を年度内にまとめるべく準備を進めたが、わかりやすくかつ充実した内容にするのに当初の予定よりも時間がかかったため、年度をまたぐことになった。 以上の経過に照らし合わせて考えると、公害資料館を「メディアミックス」実践の場として捉え、様々なメディアを分析していくという研究における成果は順調にあがってはいるものの、シンポジウム報告書が完成できなかったことを考慮して、現在までの達成度を「やや遅れている」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
シンポジウムの報告書のまとめが2018年度内に終えられず、補助事業期間の延長を申請し許可された経緯を考えると、まず報告書をまとめることに力を注ぐ。その報告書をシンポジウムにかかわった人たちや、それ以外にも公害学習に携わる現場の教員に配布し、何らかの形でフィードバックをもらう予定である。そのためにも、報告書の周知を図る機会や、報告書をもとにさらなる議論を重ねる場を設ける予定である。「語り部」や解説員の多くが元教員であることに鑑み、この報告書が公害教育において学校現場と資料館の連携をつくりだすきっかけとなれば、公害を伝えるためのすそ野が徐々に広がっていくのではないだろうか。 また、広島平和記念資料館の伝承者との比較を通しての「語り部」や「ボランティア解説員」のメディアとしての役割について、今年度も継続して研究を行っていく。2018年度から始まった被爆体験伝承者等派遣事業の実態の聞き取り調査も行い、ここでも教育現場と資料館の連携の可能性について探っていく。平和教育と公害教育の類似点や相違点についても考えたい。これらの研究成果は論文としてまとめ、日本コミュニケーション学会九州支部ジャーナルで論文として発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度に開催したシンポジウムの報告書の作成が年度内に終わらず、延びたため。
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