日本の伝統的低位職である皮革業集団が明治期以降外部企業家らとの協働をなしとげ近代皮革産業に積極的に関与してゆく過程を考察し、近代的製革産業が展開してきたにもかかわらず、その過程がほとんど評価されてきていない状況についてディスコース分析をおこなった。 皮革の社会史として欧州・アジアの皮革業専門集団(ユダヤ人、客家、インド系イスラム教徒)において、皮革産業における成功がマイノリティ集団の社会的進出に大きな貢献をし、アイデンティティの称揚を助けた点を分析した。また、英国をはじめとする皮革関連ギルドなど内部組織の比較研究をおこない、いかに皮革業集団が社会的地位を高めてきたかを分析した。この成果をすでに1冊の著書として出版した(革をつくる人びと 2017刊)が、さらに2019年度内に岩波新書より皮革の文化史を出版予定であり、現在最終稿を調整中である。この書籍ではマージナルな集団と結びついた皮革産業についてだけでなく、現代の皮革産業をグローバル資本の視点でとらえ、ラグジュアリーマーケットにおける皮革ブランドの地位や、皮革のファッション文化におけるさまざまなマイノリティ集団とカウンターカルチャーのシンボルとしての皮革の地位を論じている。 本研究では、近代以降の皮革産業史調査を国内・国外で行うことができ、2016年に東京台東区の皮革博物館)、および英国ノースハンプトン大学皮革研究所とArchaeological Society of Leatherの共催による日本の皮革づくりの伝統に関する特別セミナー(Japanese Leather- Its Mystery and Enigma)にて発表することができた。英語による成果の一部は駒澤大学総合研究部紀要(2019年)に発表してあるが、さらに2019年度中に英国の学会SLTCの学会誌に寄稿も予定している。
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