研究課題/領域番号 |
16K04100
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研究機関 | 成蹊大学 |
研究代表者 |
五十嵐 智子 (澁谷智子) 成蹊大学, 文学部, 准教授 (90637068)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ヤングケアラー / ケアを担う子ども / コーダ / 子ども支援 / ケアラー支援 / 手話 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、27年度にイギリスのヤングケアラー支援者に実施したインタビュー・データ(ラフバラ大学ヤングケアラー研究グループのジョー・オルドリッジ氏、チルドレンズ・ソサイエティ包摂プログラムのヘレン・リードビター氏、全国ヤングケアラー連合会長のジェニー・フランク氏へのインタビューの起こし)と、「2014年子どもと家族に関わる法律(Children and Families Act 2014)」「2014年ケアに関わる法律(Care Act 2014)」「2015年ヤングケアラー(ニーズに関するアセスメント法律施行規則(The Young Carers (Needs Assessments) Regulations 2015)」の分析を行ない、論文「ヤングケアラーを支える法律――イギリスにおける展開と日本での応用可能性」を執筆して『成蹊大学文学部紀要』第52号に掲載した。
国内においても、藤沢市で公立小中学校・特別支援学校計55校の全教職員にヤングケアラーアンケート調査を実施した。筆者は日本ケアラー連盟ヤングケアラー・プロジェクトのメンバーとして、このアンケートの作成、発送、分析に中心的に携わった。アンケートは7月12日~30日に1812人を対象に行なわれ、その結果、1098人の回答が寄せられた。筆者はこれらを分析し、報告書「藤沢市 ケアを担う子ども(ヤングケアラー)についての調査 ≪教員調査≫報告書(速報版)」を執筆した。さらに、その報告書に基づいて、藤沢市小学校教頭会、中学校教頭会で報告を行なった。
平成28年7月31日には、東京大学本郷キャンパスにおいて、「ケアする子どもと若者たち――ケアを担うということ、そして将来への不安」というタイトルでトークセッションを行なった。この内容は『支援』第7号に掲載されるべく(平成29年5月刊行予定)、現在校正作業が進んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、ヤングケアラーを支える法律に関する論文を平成28年度中に刊行することができた。また、研究計画において平成29年度に実施するとしていた、都市部における公立小中学校教職員へのヤングケアラー・アンケート調査は、藤沢市からの協力の申し出を頂いたおかげで、平成28年度に行なうことができた。この点では、当初の計画以上の進展があった。
南魚沼市でのヤングケアラーへの支援に関する聞き取り調査も、計画通り、教育委員会、福祉保健部、子ども・若者育成支援センター、社会福祉協議会、北辰小学校などで複数回行なった。平成29年2月15日には、これらの部署の方々に南魚沼市役所に集まって頂く形で、ヤングケアラー支援に関するワークショップを実施した。さらに、南魚沼市教育委員会とヤングケアラー研修会を企画し、「ヤングケアラーについて知ろう!」という発表を行なった(平成28年9月12日実施)。このように、南魚沼市の行政関係者や学校関係者にヤングケアラーへの感度を上げて頂くという点に関しては、かなりの成果をあげられた。しかし、その一方で、見つかったヤングケアラーをどこにつなげるのか、誰が相談にのるのかなどについては、まだ現場も模索しており、研究でもそれを明確化するまでには至らなかった。この研究は平成29年度にさらに継続して続けていくことになるため、総合的に、「(2)おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、南魚沼市において、ヤングケアラー支援を実践していくためのツールやネットワーク作りを、南魚沼市教育委員会(子ども・若者育成支援センターを含む)、福祉保健部、社会福祉協議会などと協力して行なう予定である。具体的には、南魚沼市のスクール・ソーシャルワーカーや子ども・若者育成支援センターの家庭教育支援チーム「だんぼの部屋」などと連携して、実際にあった事例等に基づき、日本の学校においてヤングケアラーとは何かを伝えるための寸劇を作成する。また、ヤングケアラーかもしれないと思われる子どもが見出された時に、どのレベルの子どもをどの機関につなぐのか、それを振り分けるための基準と、フローチャートの作成を目指す。
一方で、平成28年度に藤沢市で行なった公立小中学校教職員へのアンケート調査の結果をより深く分析して、日本社会福祉学会2017年度第65回秋季大会で報告する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画においては、イギリスのヤングケアラー支援を行なっている専門家を招聘して、日本でヤングケアラー支援に関するシンポジウムを主催する予定であったが、実際に行政への聞き取り調査を行なっていく中で、今はまだそうしたシンポジウムを行なうよりも、地域において丁寧な掘り起こしをしていくことを優先すべきと判断したため
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次年度使用額の使用計画 |
南魚沼市で家庭教育支援を行なっている「だんぼの部屋」のスタッフ3人が、ヤングケアラーについて学校の生徒に説明するための寸劇のシナリオを、成蹊大学で筆者と共に作成する際の旅費に用いる。また、ヤングケアラーが18歳を越えた後のことも視野に入れるため、18歳を過ぎた元ヤングケアラー(若者ケアラー)の語りの収集や分析に関する費用に用いる。
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