研究課題/領域番号 |
16K04106
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研究機関 | 明星大学 |
研究代表者 |
熊本 博之 明星大学, 人文学部, 准教授 (80454007)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 地方自治 / 沖縄 / 軍事 / 国防 / 補完性原理 / 米軍 / 自衛隊 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、「国土のグランドデザイン2050」で「選択と集中」の論理に基づく地方政策の方針が示された結果、地方公共団体が「住民の福祉の増進を図る」という本来の機能を発揮できなくさせられていることを、沖縄における軍事基地建設問題の事例研究を通して明らかにし、本来の地方自治を実現するための方策を探ることにある。 この目的を達成するため、平成29年度は普天間基地移設問題を抱える名護市、および陸上自衛隊基地の建設計画がある石垣市の2自治体についての調査を進めた。名護市では、普天間代替施設の建設予定地である辺野古地区でのフィールドワークを主に実施した。建設工事が進むなか、決定権が与えられていないにもかかわらず決定者の位置におかれている辺野古区民は、自分たちの決定できる範囲を広げるため、基地建設を容認した上での政府との交渉を進めようとしていることが、今年度の調査を通して明白になってきた。そのことは特に、平成30年2月に行われた名護市長選挙で当選した、事実上の容認派である渡具知武豊氏を、辺野古区民の大半が支持していたことに象徴されている。 石垣市では平成30年3月に行われた石垣市長選挙において、3名の候補者の選挙対策事務所での聞き取りを中心とした調査を実施した。石垣市長選挙においては、1名の候補者が自衛隊配備問題を前面に押し出した選挙戦を展開していたものの、全体としては争点となりきれていなかった。その根底には、中央政府からの財源の再分配に依存している石垣市財政の問題がある。三選を果たした現職は、自衛隊基地建設を容認することで政府との関係を維持しており、その点において現職を支持した市民は、結果的に自衛隊基地建設を容認することになった。 両事例ともに「住民の福祉の増進を図る」ために軍事基地を受け入れざる得ないという矛盾があらわれていたといえよう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた調査は概ね実施できた。与那国町長選挙については、既に自衛隊基地が完成していたため、選挙時の調査は回避し、自衛隊基地が地域社会に及ぼしている影響についての調査を平成30年度に実施することとした。 名護市および石垣市における、軍事施設の建設を容認する市長の誕生および継続は、地方自治体および住民の自己決定権が、安全保障政策への貢献を期待され、それに答えることで報奨金化した補助金が交付される「報奨金化する社会」において損なわれていたことの帰結である。このような帰結は本研究が開始される前から予想されていたものであったし、そのような結果に至る経緯を、現地調査を通してつぶさに見ることができた。 ただそれは同時に、軍事施設の建設に反対する平和運動の焦点が「住民の福祉の増進」に向けられておらず、地方自治体の自治を可能にする力とはなり得ていなかったことの帰結でもある。平和運動と地方自治とを接続するための理論的提言は、課題として残った。
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今後の研究の推進方策 |
名護市、宮古島市、石垣市、与那国町の調査を進めていく。与那国町では建設された自衛隊基地が地方自治体および住民の自治に及ぼした影響について考察する。残りの3自治体は、政府より安全保障への貢献をなし得る地域として「選択」され、軍事基地の建設(計画)の進展に寄与する限り、投資が「集中」的になされていくことになる。そのことが自治に及ぼす影響を分析していく。 また平成30年11月には、任期満了に伴う沖縄県知事選挙が予定されている。知事選をめぐる経緯とその帰結についての考察も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 与那国町での調査を実施しなかったため旅費の支出が想定より少なかったこと、人件費の支出もなかったため。 (使用計画) 与那国町調査の実施、および書籍購入等にあてる。
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