研究課題/領域番号 |
16K04108
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
関 礼子 立教大学, 社会学部, 教授 (80301018)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ライフの復興(生活の復興) / 生活の時間 / 制度の時間 / 被害の社会的承認 / 加害の社会的承認 |
研究実績の概要 |
本研究は、(1)東日本大震災が露呈させた地域社会の脆弱性、災害や復興事業がもたらす環境影響を被災地域・当事者視点から析出し、(2)災害復興における合意形成の困難や形成された合意の機能不全、(3)被災・避難当事者目線での復興策を提示することを目的としている。こうした目的に沿って災害をめぐる「生活の時間」と「制度の時間」のズレ、災害復興におけるハード復興第一主義と置き去りにされる被災者の「ライフ(生活)の復興」という点について、「災害をめぐる『時間』」、「原発事故避難をめぐる“復興”と“再生”の時間」「故郷喪失から故郷剥奪の被害論」という3つの論文で示した(関礼子編『被災と避難の社会学』東信堂、2018年)。 また、特に原発災害における被害の社会的承認について、「未認知」「非認知」「不認知」という概念を提示し、被害の社会的承認の不十分さを指摘した(「原発事故7年目のシンポジウム」於宇都宮大学のコメント)。 被災・避難者のヒアリング調査については、長きにわたり原発設置反対の運動主体であり、自分たちが指摘したとおりの原発事故被害が生じ、避難生活を強いられることになった避難者訴訟原告の運動史を「聞き書き資料」としてまとめた。これは報告書として印刷準備中(5月中印刷)である。 この聞き書きを通して、(1)被害の社会的承認は加害の社会的承認であることを析出した。(2)原発事故と公害問題との類似と差異が明確であり、原発事故後に生じたさまざまな問題が、環境法体系のなかで一体的に論じられるべき放射能による環境汚染が別の法体系で扱われることの矛盾の噴出であることの2点が明確になった。住民の視点からすれば原発事故は必然であったという観点については、学会報告を準備しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の「研究実績の概要」で示したように、本研究の目的の中軸となる1年目と2年目の研究成果が公表または公表間近となっている。そのため、研究はおおむね順調であると考える。特に、災害による被災地域の脆弱化が、復興政策を触媒として、加速度的に進展してきていることについて、住民の生活という視点から調査・分析し、公表してきた。ヒアリング成果を記録として残し、発信する作業も印刷準備中である。ただし、当初計画のHPにおける情報発信が未了である。 自主避難者の受入れに関する九州・沖縄地区の記録については、避難者の流動性により、避難克服のレジリアンスに関する論文ではなく、避難受け入れ地域における原発事故の咀嚼として「島人と移住者の『ちむぐくる』-東日本大震災被災・避難者支援のコミュニティ」(共著)として公表した(関礼子・高木恒一編『多層性とダイナミズム』東信堂、2018年)。他方、自主避難者の被害克服のレジリアンスに関しては、避難者の流動性に鑑み、フィールドを新潟に変えてヒアリングに着手している。ヒアリングは進んでいるが、個人が特定化されるような公表に関しては慎重な被調査者も多いことから、記録を集積させつつ、公表のタイミングを待たざるを得ない。 その前段として、被害者が言葉を奪われ、沈黙しがちな状況をつくっているのは何かを問うて、理論化していくことが、新たな課題として浮かび上がってきた。いくつもの避難者訴訟が法廷で争われているが、特に自主避難者の場合には、訴訟を支える「顔の見える」避難者は一握りにすぎない。公害・薬害訴訟などと同様に、被害者が声を剥奪される構造を明らかにしていく必要がある。 なお、声の剥奪は、直接的な暴力ではなく、復興施策を通した間接的かつ構造的なものであることに留意する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる本年は、避難者の「生活の時間」と「制度の時間」とのズレを理論化するとともに、ハード復興第一主義から「ライフの復興」第一主義にシフトする必要性を明確にしていく。また、自主避難者のヒアリングを記録化し、同意を得た部分から公表をすすめていく(その場合でも、当然、被調査者保護には十分に留意しなくてはならない)。印刷準備中の報告書に続き、自主避難者の避難経験についてまとめることを目標とするが、時期が適切でない場合には、避難者受け入れ地域からみた避難者の論理を記録として公表したい。 研究成果については、学会報告、論文、報告書などのかたちで3年間の研究をとりまとめる。公害問題から放射能汚染問題を切り離す「政治」、復興事業の「政治」(ショック・ドクトリン)に抗する、当事者の論理を明確にする。 避難者はいつ避難者ではなくなるのか、という言説も聞かれるが、これに対して「ライフの復興」は被害を社会的に承認された時期から始まることを、「修復的司法」の考え方を援用しつつ論じたい。環境思想の系譜との接合がそこで可能になると思うからである。 上記の目的を達成するために、ヒアリング調査を補足的に実施していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度の予算が少なくなることもあり、調査経費を節約して削り出した研究資金である。調査や報告書印刷などで利用する。
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