本年度は「史上最大・最悪の公害」といわれる福島原発事故について、(1)被災・避難者にとって福島第一原発事故はどのような経験であったのかを、福島第2原発設置反対運動に携わり、福島避難者訴訟の原告でもある方の口述史から描き(学会報告、報告書)、(2)区域内避難者の「ふるさと喪失」を「ふるさと剥奪」という観点から明らかにした(論文「土地に根ざして生きる権利」)。また、(3)主として新潟をフィールドとし、区域外避難者の困難とその裁判での訴えから析出した(口頭報告)。 ふるさとを剥奪された原発反対運動の担い手からすれば、その反対運動の契機は公害反対運動であった。新潟水俣病の裁判原告と協同した新潟の避難者らは、自らが抱える被害と公害被害との類似を確認するとともに、公害源としての原発の存在を意識化した。 区域内/区域外避難者の苦痛や困難は、時間によって解決されるのではなく、むしろ時間によって被害が拡幅される側面がある。「制度の時間」は帰還と復興への道筋を描くが、「生活の時間」は復興から取り残される。避難者は、被害の社会的承認なしに人生を前に進めることはない。 たとえば、仮設住宅・借り上げ住宅の供与終了は、避難者の姿を見えにくいものにしている。避難指示区域の解除がすすめられるなかで、区域内/区域外という区別は曖昧化しつつある。強制避難者の自主避難者化が進んでいるが、避難指示区域の解除は「ふるさと剥奪」という事実を覆すものではない。ここから、現在もなお避難指示区域である地域のふるさと剥奪(プロトタイプA)、避難指示が解除された地域のふるさと剥奪(プロトタイプB)という2つにふるさと剥奪の被害を類型化しうる。こうした理論的な「発見」も、最終年度の重要な成果である。
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