約半数が在宅死を迎えるイタリア社会をフィールドとして、住み慣れた自宅で高齢者の看取りがいかに実践されているかを、看取りに関わるケア労働者を対象としたインタビュー調査によって明らかにした。 最終年度となる2019年度では、これまでに実施したインタビュー調査に加え、現地にてさらに3名を対象とした半構造化インタビューを行った。ルーマニアからの移民女性1名、イタリア人看護師1名、イタリア人ボランティア1名である。移民女性のインタビューでは、2017年、2018年に実施したインタビュー内容を補完する新たな情報が得られた。さらに、イタリア人2名のインタビューでは、終末期医療やホスピスでのケアに対する、別の角度からの意見や、(経済的問題や家族問題から)移民ケア労働者を雇用できない高齢者が、地域社会においてどのような形で支援されているかの具体的ケースを把握することができた。 2019年度内には、2回の質的調査をまとめた2本の論文を出版した。「イタリアにおける在宅死―自宅での介護を可能とする条件に着目して」『保健医療社会学論集』では、イタリアの医療福祉制度を含めた社会のあり方や利用可能な資源に焦点を当て、高い在宅死率が何に由来するかを検討した。その結果、自宅での介護の継続を可能とする人的な資源に加え、世代間連帯の規範が関連していることが明らかとなった。また、「私は部外者それとも「準家族」?-ケア労働者が担うイタリアでの在宅看取り」『ソシオロジ』では、高齢者介護を担う移民ケア労働者が、高齢者の在宅死を支えており、その仕事はケア労働者にとって大きな精神的負担となっていることが明らかとなった。 2019年6月に実施した追加インタビューの結果を踏まえ、住み慣れた自宅(のある地域社会)において高齢者が看取られる社会の実現に、血縁者のみならず、非血縁者が関わる現代社会の課題について検討したい。
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