本研究では、戦後韓国における「民族主義(nationalism)」をめぐる言説の変容を検討するため、1961年開局以来現在に至る70年余りの間に韓国公共放送が毎年恒例的に制作・放送し続けられてきた「8.15」ドキュメンタリーシリーズのイデオロギー装置を本稿の実証的な分析対象とした。こうした対象を用いた本研究の目的は、戦後のテレビドキュメンタリーシリーズにおけるナショナリズムの言説の変容を中核に持ちながら、近代韓国の約36年間に亘る「植民」の記憶が模索してきた支配的言説を中心とするナショナリズムの他者のイメージを、文化的・社会的・政治的、そして国内だけはなく国際的な動向の文脈を複合的に交えつつ総合的に検討するためであった。こうした考察を通して得られる主とした知見は二つが挙げられる。まず、戦後のポストコロニアル時代における韓国(韓国人)のナショナルアイデンティティの想像と創造の編制や、歴史的な変容をめぐる表象の連続性(もしくは非連続性)が解釈できた点である。次に、戦後凡そ半世紀の間のテクストの流れの中のテクストの言説に関わる他者性(otherness)を明らかにすることで、戦後の韓国独自の「民族主義(nationalism)」をめぐる特徴と変容の全貌が検討できた点である。 なお、本研究の意義としては、まず、「研究対象の独創性と先駆的な学術成果」である点が挙げられる。人文社会科学やメディア研究において韓国の「8.15」ドキュメンタリーシリーズを研究対象にして戦後韓国におけるナショナリズム言説変容を考察したのは初めての試みであるので、本研究は極めて先駆的かつ独創的な成果であると言える。そして、「新しい方法論の呈示」が挙げられる。本稿では研究方法論として独自のテクスト分析視座を方法として確立させた。こうした新たな番組分析視座を構築した試みはこれまでの先行研究ではなされなかった挑戦的な提案であるので有意義な試みであると考える。
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