研究課題/領域番号 |
16K04119
|
研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
崎山 治男 立命館大学, 産業社会学部, 准教授 (20361553)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 感情社会学 / 感情労働 / 心理主義化 / 自己実現 / ビジネス・マナー |
研究実績の概要 |
本年度は、感情労働を進んで行っていくことこそが自己実現として望まれる社会が作り上げられるメカニズムを分析した。具体的には、ウォーラスティンやアリギ等の世界システム論、ネグリらの帝国論を、現代グローバル化を経済的に分析する視座とした。さらに、ローズやホクシールドの労働と自己・人文知に関する議論を感情労働を通した自己実現へと自己を駆り立てる個人意識に関わる視座とした。その上で、これらの視点の接合を理論的・実証的に展開した。 その成果が論文「語りへの包摂・語りへの排除」であり、学会発表“Mobilization Through the Emotional Labor”である。前者では、感情労働を行うことやその場での感情を語ることにこそ労働場面や自己の真実があり、リアリティがあると称揚されることが現代社会の特徴であることを示した。ただ、その一方で、貧困や性差・エスニシティー等の問題が後景に退いたり、レトリックやワードが特定の仕方でしか語られなくなっていくカラクリが、語りの隆盛という社会でもあることを論じた。さらに、それら貧困や性差・エスニシティーの問題群の語りは、ただ語られるだけで排除されていくものでもある。 後者では、心理主義化が進展する中で自己分析などに象徴される、自己を語る心理学的なツールが2000年代の日本社会に導入された力学を比較社会的に考察したものである。具体的には、自己分析等のツールが就活に導入された背景、心理学を用いたビジネスマナーの登場、「自己実現」を労働で図ることが称揚される裏側での製造業の衰退と第四次産業化といった事柄について、日本と欧米の異同を分析した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画通りに、日本社会における、主としてビジネス・シーンにおける心理主義化の浸透を描き出せており、国内外への成果発信も行えているため。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度の研究は、2018年度の研究をさらに深化させていくこととなる。具体的には、感情労働へと人を駆り立てるあり様を、労働の人口動態の変化と心理学的な知から追っていき、実証調査により裏付けたい。 具体的には日本の少子高齢化と労働力不足が見通される中で、AI等による労働の代替あるいは外国人労働者の受け入れをその解決としようとしている。だが、現在までの技術革新・人口移動・法制であるならば、それは単純労働の代替に過ぎないか、あるいは介護といった特定のものに過ぎないともいわれる。 それが事実であるのか、より正確に述べると現代日本社会が代替してほしいと望む労働なのであって、必然ではなく、将来的にどのような関係が築かれるのかを考察する。 これら課題についての労働現場、企業への質的調査も併せておこないたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
継続して収集している労働場面のマナー等の資料集の納入時期のズレと、調査対象・成果発表の時期を変更したため。 本年度にこれら調査(中国・フィリピン等の介護派遣業を予定)と成果発表、物品購入は行われる。
|