研究実績の概要 |
本年度は、感情労働をする能力である感情資本の有無により、社会階層が両極化される有り様について、主として理論的な考察を行った。また併せて今後の新たな研究課題で予定している質的調査についての準備作業を試みた。 前者に関しては、感情労働が自己疎外を来すという主張が一面的であり、感情労働における人間関係とそこから得られる肯定的な反応はむしろ心理的報酬ややりがいをもたらすのではないかという理論的考察を主に行った。その上で、現代社会においてはこの人間関係で感情をマネージメントする能力により、職業が二極化され、それをうまく行える層がクリエイティブ・クラスとなり、うまく行えない層が周縁化されることを示した。その成果としてはSakiyama,H.2023”Mobilization through Emotional Labor”『立命館大学産業社会論集』58-4,pp.17-31にまとめられている。 後者に関しては、この知見に立った上で実際の労働現場での感情マネージメント能力の有無と階層化、並びに感情労働の実態について主として情報通信、金融業界の職務の分析を試みた。コロナ禍もあり慎重に進めざるを得なかったが、今後の新たな研究課題で取り組みたい。 研究期間全体を通しては、この知見に至るまでの理論的な足固め並びに実証研究に先立つ言説分析を試みた。すなわち、世界システム論等の知見を取り入れつつ感情労働を軸として世界が中枢-周縁図式に再編されるメカニズムとそれによる統治の特性に関して理論的な考察を試みた。また同時に、日経ビジネス、日経ウーマンといった雑誌の記事や政府が90年代より試みてきたさまざまな政策提言を元に、「望ましい人材」像として感情マネージメントをうまく行えることがますます重視される社会となっていることを考察した。
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