苦難の体験を扱う本研究において一つの柱とした、「非行やひきこもり問題」は、親子関係や学校との関係が深く、「非行問題」や「ひきこもり問題」に関する親の会の調査をおこなった。そして、その調査結果を、「「非行」の親の会の自助グループ機能と参加者の変化」(第70回関西社会学会)、「社会臨床の意義」(第27回日本社会臨床学会)において学会報告をおこなった。これらの問題の原因を、主に質的調査と参与観察により明らかにし、語り合い、他者の状況を共感して受け止めるという自助グループ活動が、なぜ苦難の体験からの解放につながる効果のある大きな方法であるかということを論じた。 また、苦難の体験を生む社会的要因を考察し、同じくそこからの解放及び、「社会再構築」に関する研究をおこなった。そしてその結果を『社会再構築の挑戦』(共著、ミネルヴァ書房)において示した。そしてそのなかで、「生きづらさの表現と他者とのコミュニケーション~自由な表現、居場所性を中心に」を執筆し、苦難の体験をもつ当事者が、「患者自身の言葉」を他者と共有し、また言語だけではなく言語以外の表現も含めることで再び、剥奪された社会的なものを取り戻していることを明らかにした。精神科病院の外来作業科を調査し、そこにおいて、治療や作品だけの評価を重視するのではなく人々の間の関係や、展覧会時の鑑賞者とのコミュニケーションを重視していることの重要性を示した。芸術療法や治療による枠組みとは異なり、当事者の自由な表現と他者との関係が、苦難の体験からの解放につながることを示した。
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