研究課題/領域番号 |
16K04125
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
大和 礼子 関西大学, 社会学部, 教授 (50240049)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 親-成人子の世代関係 / 性別分業 / 同居 / 援助 / 相続 / 父系 / 個人化 / 少子高齢化 |
研究実績の概要 |
近年、高齢化に伴い福祉ニーズが増大する一方、「介護の再家族化」(軽度の介護ニーズは家族にゆだねる)が進みつつある。同時に、成人子世代の性別分業が変化している。これらを背景に、私的な世代関係(たとえば親-成人子間の同居・援助と相続)がどのように変化しているかについて、以下の研究を行った。 1)成人子世代の性別分業の変化:東アジアの資本主義社会の中で対照的な雇用システムを持つ日本と台湾に注目し「2005年社会階層と社会移動全国調査(SSM)」を分析した。主な知見は、雇用流動化の下、日本においては男性稼ぎ主型雇用システムが弱まり性別分業に質的な変化が見られたが、台湾においてはもともと人的資本重視の雇用システムだったため、性別分業の質的変化は見られない、などである。これをもとに英語の論文を作成した。 2)親-成人子間の同居・援助:「2008年全国家族調査(NFRJ)」を分析し、さらに他の研究者からのコメントに対応して、追加の資料収集や、より複雑なモデルでの再分析をした。主な知見は、①父系優位が弱まり、実際的必要がある場合は、父系規範にもかかわらず、妻方親との同居が選択されている、②親が死別などで無配偶の場合、父との同居と母との同居では規定要因が異なり、父との同居は、父系規範に従う同居など父の権威が保たれやすいのに対し、母との同居は、資源の乏しい母を援助するための同居など母の権威が保たれにくい、③子から親・義親への援助においては、夫婦一体ではなく、夫と妻のそれぞれが自分の親をより多く援助するという夫婦の個人化が見られる、などである。これを著書として出版した。 3)相続の変化:海外の先行研究をレビューした。さらに男女の相続経験の違いについて自身が行った調査データの基礎分析を行った。その結果、少額の金融資産などについては男女差が小さくなっているが、不動産などは男女差があることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度の目標とした、以下のことは完了することができた。 ①「成人子世代の性別分業の変化についての日本と台湾の比較」についての英語論文の作成、 ②「日本における親-成人子間の同居・援助」についての著書の執筆、 ③「現代日本における相続」についての文献レビューと、調査データの基礎分析。 しかし、「日本における親-成人子間の同居・援助」については、英語で論文・著書を執筆することを目標にしていた(それによって、日本とは異なる親族文化に精通した海外の研究者と意見交換を行い、国際比較によって研究をグローバルな視野で発展・発信することをめざす)。しかし、日本語での執筆に非常に時間がかかった(その理由は、学会や研究会で研究発表をしたところ、他の研究者から非常に有用なコメントをいただいたが、そのコメントに対応するため、追加の資料収集、より複雑な統計モデルを用いた分析、さらにその結果を説明するための新しい解釈や論理の構築を行った。こうした研究の再構築の作業に多くの時間が必要だったからである)。 これらの作業は今年度中に無事完了したが、この結果をもとにした英語による論文・著書の執筆は、翻訳作業も含めて、現在進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度においては次のような研究を行うことを目標とする。 ①同居・援助・相続などの世代関係について、分析結果を英語の論文・著書にし、さらに英語での学会発表も積極的に行う。こうした活動により、他国の研究者と意見交換をして、研究をさらに深めるとともに、研究の国際発信をめざす。 特に東アジア諸国との国際比較研究につなげていくことをめざす。その理由は、日本と東アジア諸国は、親族関係について共通点もあるが(たとえば拡大家族の伝統、父系を重視する伝統など)、相違点も多い(たとえば公的年金・介護制度の発達の度合い、男児選好・女児選好の度合い、成人子世代の性別役割分業のあり方など)。現代日本の世代関係やそのゆくえは、他の東アジア諸国と比較することによって、より深く理解できると考えるからである。 ②現代日本における相続について、より詳しい分析を行う。具体的には、男女差に加えて、規範要因(地域による親族文化や産業化の度合いの違い、きょうだい順位による違い、教育程度や個人の規範意識による違いなど)、資源要因(職業・収入などの社会階層による違い、きょうだい数による違いなど)、そして状況要因(親との地理的距離による違い、介護など他の援助のあり方による違い)などについて検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
①今年度は、以下の2つの作業に、非常に時間がかかった。第1に「日本における親-成人子間の同居・援助」について著書を執筆する過程で、他の研究者からのコメントに対応するため、追加の資料収集・より複雑な統計モデルによる再分析・新しい解釈や論理の構築などを行う必要があり、時間がかかった。第2に「相続」についての調査データの基礎分析をする過程で、現在の家族関係は離婚・再婚もあり非常に複雑で、相続も複雑化しているため、調査における回答には、選択肢を選ばずに「その他」として自由記述で回答するといったものが多かった。それらをすべて数値データにコーディングする作業が膨大だった。以上の作業に非常に時間がかかったため、研究結果を英語の論文にする時間が十分にはとれず、そのために翻訳の費用を支出することができなかった。 次年度は、これまで分析・執筆してきた結果を、英語に翻訳する。そのための費用として用いる。翻訳作業は、現在、すでに進行中である。 ②これまでの研究結果を海外の学会で発表する予定だったが、日程が重要な学内用務と重なったために、学会参加を断念し、海外出張ができなかった。そのために、旅費を支出できなかった。 次年度は、海外での学会に積極的に参加・研究発表し、他国の研究者と意見交換し、国際比較研究としてさらに発展させる。そのための費用に用いる。
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