研究課題/領域番号 |
16K04126
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研究機関 | 四天王寺大学 |
研究代表者 |
田原 範子 四天王寺大学, 人文社会学部, 教授 (70310711)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | モビリティ / シティズンシップ / トランスナショナリティ / 移民社会 / アフリカ大湖地域 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、トランスナショナルな移民の動態、国境を越えて「つながる」ネットワークの活用を明らかにし、モビリティの基底にある社会的政治的なメカニズムを解明することである。本年度は、①東アフリカ社会の国境地域におけるフィールドワークを実施し、移民の受け入れ社会、送り出し社会、双方の社会空間における参与観察と聞き取り調査を実施した。人びとのモビリティが、経済的・政治的合理的判断にのみ基づくのではなく、人間が何らかの共同体や社会に「帰属する」という意識、そこで「暮らす」「働く」という感情的で偶然的な産物によるとの示唆を得た。 ②モビリティの歴史的背景を明らかにするために、旧宗主国イギリスにおいて文献研究とアーカイブワークを行った。それらの資料により、すでに1900年代前半にはアルバート湖ではベルギー領コンゴとの揉め事が発生していたこと、ウガンダ保護領の漁獲には世界市場からの需要があったことなどが明らかになった。とりわけ調査地が「1960年代に村として機能し始めた」と人びとに語られていたが、すでに1900年代前半の地図に村名が記されていることも発見した。 ③これらの研究成果について次年度以降の国際学会・国内学会での報告を準備し、ホームページでの公開を進めている。 また、シティズンシップにかかわる理論を深化させるために、シティズンシップ研究会に参加し、研究報告を行い、論文執筆中である。そして研究の深化にむけて、移民受け入れ先進社会の予備調査(フィンランド)および社会的周縁部分におかれた人びとの聞き取り調査(日本のハンセン病元患者)を実施した。多様な人びとが集う空間におけるシティズンシップの構築可能性については、次年度以降、より集中的に取り組む予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国境を越えて展開される社会現象について研究を遂行するために、平成28年度の課題として、(1)フィールドワーク、(2)アーカイブワーク、(3)移民社会の理論的研究、(4)国内外の学会報告に向けての準備、(5)ホームページの運営を企画した。課題遂行状況は以下のとおりのため、おおむね順調に進展していると考えられる。 (1)2016年8月にウガンダ共和国・アルバート湖岸地域でフィールドワーク、9月にフィンランド・ユバスキュラで移民受け入れについての予備調査を実施した。(2)2017年3月にロンドンの国立公文書館、英国図書館、ロンドン大学SOAS図書館でアーカイブワークを実施した。(3)5月の国内研究会、8月のウガンダでの国際研究会をとおして、国際社会における研究動向を踏まえて、シティズンシップ研究の理論的基盤の理解を深めた。また、国内のハンセン病療養施設での聞き取りを実施し、社会的周縁におかれたもののシティズンシップへと視野を広げることを試みた。(4)研究成果公開のために、研究協力者とともにホームページを運営し、随時更新を試みている。(5)2017年国際学会IUAESでパネルを企画した。
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今後の研究の推進方策 |
多民族「共生」を可能とする原理とシティズンシップを探求するために、以下のような方策により本研究課題を推進する。 (1)平成28年度同様、研究代表者がアルバート湖岸の移民社会・出身地域、連携研究者がウガンダとケニア国境のトロロにおいてフィールドワークを実施し、移民一世、二世、三世の聞き取り調査、および移民受け入れ側(アルバート湖はニョロ系ムグング人、トロロはパドラ人)の聞き取り調査を行う。 (2)モビリティの歴史的側面からマクロな構造的歴史的文脈を明らかにするためにマケレレ大学のアーカイブ、イギリス国立公文書館、イタリア宣教師団の歴史資料、新聞等マスメディアの資料の収集し、整理・分析を試みる。 (3)モビリティとシティズンシップにかかわる理論的研究の深化のために、長崎大学を中心とするアフリカンシティズンシップの研究会と南アフリカとの二国間事業に参加する。移民受け入れ先進社会(フィンランド)での調査、社会の周縁におかれてきたハンセン病元患者の聞き取り調査(日本)も継続する。 (4)連携研究者の岩谷洋史を中心として、ホームページの運営および映像・写真資料の一般社会への公開可能性を国外・国内の学会に参加して推進する。また日本アフリカ学会、日本生態人類学会での報告を企画する。
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