本研究は、コモンズ空間とかかわってきた人びとの空間とのつきあい方の検討をもとにして、地域社会の空間管理政策にあらたな選択肢を提出することを目的としてきた。最終年度となった本年は、前年度までと同じく新型コロナ感染症をめぐる社会的影響によりフィールドワークの難しい状態がつづいたが、そのなかでも新たなデータを加えることができた。調査を実施した事例地においては、現在まで観光地化が進行しており、訪問のたびに新しい施設ができるなど、一見すると大きな景観変化のただなかにある。だが、とくに地域住民のコモンズ空間に対するふるまいは、地域外の資本が同様の空間にもたらす変化とは異なる共通の特徴をもっていることが看取できた。すなわち、形態的にはもちろん、かかわりのあり方という意味においても、対象となる空間が不可逆的となるような選択を避けるという点である。さらに、そのような選択がなされているかどうかが、地域の人びとの集合的な評価や納得に結びついていることを確認することができた。また、そのような行為と評価の体系が、コモンズ空間が重層的で可変的でありつづけることのポイントとなっているように解釈できた。他方、本研究の方法論的な検討については、その一環として現場の人びとの生活をどう捉えるべきかを小文にまとめた。現場の人びとの暮らしやふるまいは属性ではなく認識レベルで捉える必要があること、またそれによって浮かびあがる現場の個別性が重要となることをあらためて確認することができた。
|