研究課題/領域番号 |
16K04132
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研究機関 | 沖縄国際大学 |
研究代表者 |
桃原 一彦 沖縄国際大学, 総合文化学部, 准教授 (40369202)
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研究分担者 |
池田 緑 大妻女子大学, 社会情報学部, 准教授 (40337887)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 差別・排除 / ポストコロニアリズム / 権力関係 / 沖縄 / 基地問題 / 基地引き取り運動 / 県外移設論 / 自己決定権 |
研究実績の概要 |
1.文献研究については、沖縄関連文献を中心に沖縄と日本とのポストコロニアルな権力関係について検討を行った。とくに沖縄の基地問題をめぐる平和思想や運動論上の思想に関わる言説を通して、沖縄と日本の関係に機能する主体化と服従化の側面を中心に検討を行った。また、ポストコロニアリズムと社会学の権力論・差別論の文献および政治哲学関連の文献を通して上記検討課題の理論的な部分を補った。 2.28年度のヒアリング調査については、29年度に向けての予備的調査を行った。まず、沖縄県外において基地問題等に取り組む市民運動グループにヒアリングを行い、本研究に関わる調査の主旨説明と基本的な情報の収集を行った。このヒアリングにおいては、沖縄と日本との関係にある差別構造を解消することを目的とした「沖縄の米軍基地を日本に引き取る」ための運動が広範囲に展開しつつあることなど、新たな動向が明らかとなった。 3.ヒアリング調査の2点目として、沖縄県内で基地問題等に取り組む様々なアクター(基地問題等の市民運動家、沖縄の著述家、メディア関係者など)に予備的調査を行った。この調査でも本研究の調査の主旨説明と基本的な情報収集を行った。とくに、沖縄で広まりつつある「自己決定権の確立」を目的としたグループに対して、今後の活動方針や日本社会に対する意識、そして沖縄に対するヘイトスピーチ問題等について聞き取りを行うことができた。また、29年度実施予定の大学生を対象としたアンケート調査の参考とするべく、沖縄の大学生に基地問題と日本社会に対する意識について予備的なヒアリングを行った。 4.ヒアリング調査の3点目として、沖縄県外在住沖縄出身者に対して基地問題や日本社会との距離意識等について予備的聞き取りを行った。これは29年度のライフヒストリー調査に向けた基礎的な情報の収集となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
文献調査については、沖縄社会、基地問題、沖縄と日本との関係に関する文献の検討が十分に進んだと言える。ただし、理論的視座に関する文献の整理、さらにそれらの沖縄と日本との権力関係に対する応用という点で論点整理はまだ不十分な点がある。 28年度実施予定のヒアリング調査は概ね実施することができた。ただし、沖縄県内の様々なアクター(基地問題等の市民運動家、沖縄の著述家、メディア関係者など)に対する調査については、対象者選定のための基本的な情報収集がさらに必要である。とくに普天間基地の辺野古移設問題を中心として沖縄の政治状況が流動的に展開しており、その動向を見きわめながら29年度の調査に向けて基本情報の収集と質問項目を準備しておきたい。 また、沖縄県外における基地問題等の市民運動グループへのヒアリング調査については、大阪を中心に予備的な聞き取りが概ね順調に進んでいる。ただし、他の地域については基本的な情報収集の段階にとどまっている。とくに東京では29年より活動を開始している多様なグループが見られるため、本格的なヒアリングの前提として基本的な情報収集が不十分であるといえる。 さらに、28年度には沖縄県外在住沖縄出身者に対するヒアリングを開始しており、関西圏を中心に概ね順調に進んでいる。ただし、関西圏以外に在住する沖縄出身者へのヒアリングについては十分には行われていない。 28年度は上記のヒアリング・データをもとに仮説構築を行い、29年度実施予定の沖縄県内外在住大学生に対するアンケート調査のワーディング作業を行う予定であったが、これらの一連の作業がやや遅れている状態である。 以上を総合的に判断し、ヒアリング調査等に若干の遅れはあるものの、概ね順調に進展していると自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
沖縄社会、基地問題、沖縄と日本との関係に関する文献の検討を引き続き進めるとともに、29年度は理論的視座、とりわけ差別構造やポストコロニアルな権力関係に関する論点の整理を行う。30年度には沖縄と日本との関係をめぐる問題に理論的な視座を接合していく。 次に、ヒアリング調査については予備的調査から本調査の段階へと進んでいく予定である。ただし、28年度は沖縄県内の様々なアクターに対する予備的調査が不十分であったため、29年度中は予備的調査と本調査を集中的に実施する。また、沖縄県外(日本社会)における基地問題に関する市民運動グループへの本調査を実施するとともに、予備的調査が不十分であった大阪以外の市民運動グループに対して集中的にヒアリングを実施する。さらに、沖縄県外在住沖縄出身者に対するヒアリングについても関西圏での本調査を進展させるとともに、関西圏以外の沖縄出身者に対する予備的調査と本調査を集中的に実施する。 次に、29年度に最も重点を置くものとして、沖縄県内外に在住する大学生を対象とした基地問題および沖縄社会と日本社会との関係に関するアンケート調査を実施する。この点に関しては、28年度中に遅れていた仮説構築と質問紙のワーディングを29年の5月中に行い、6月~7月に調査を実施する。また、アンケート調査のデータ分析においては、25年度~27年度科学研究費助成事業・基盤研究(C)(課題番号:25380694、研究代表者・池田緑)において実施したアンケート調査のデータとの比較検討を行っていく。 以上、文献研究と実証データから得られた知見を接続し、基地問題をめぐる沖縄社会と日本社会との権力作用のありようを再検討する。29年度の後半から研究成果の報告書を作成し、30年度には調査協力者やメディア等に配布・還元していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
H28年度に未使用額が生じた理由は、主として「人件費・謝金」に未使用額が生じたことによるものである。その理由は、沖縄県内外におけるヒアリング調査が予備的調査(調査対象者に関する基本情報の収集等)にとどまったため、「謝金」が発生しなかったことによるものである。それと関連して、ヒアリングによる音声データの文字化作業のための「人件費」も未使用のままとなった。 以上と関連して、ヒアリング調査の回数が当初予定より少なくなったため、「旅費」にも若干の未使用額が生じた。 「その他」費目に関してはヒアリング調査における資料等が入手できたことでコピーや郵送等が不要になったこと、「物品費」に関しては音声データの文字化作業がなされなかったことにより記録メディアの購入等が不要になったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
H29年度は、前年度で予備的調査にとどまった各ヒアリング調査について本調査を行う予定である。とくに予備的調査そのものが不十分であった沖縄県内や沖縄県外(とくに関西圏以外の地域)については、予備的調査と本調査を集中的に行う予定である。そのため、「人件費・謝金」「旅費」「その他」に関する相当分の額を使用する予定である。 また、H29年度の当初計画分については、予定通り、文献調査のための文献購入費、アンケート調査の実施にともなうデータ入力作業(人件費)や調査票送付等の通信費等を使用する予定である。
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