研究課題/領域番号 |
16K04133
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
川島 理恵 京都産業大学, 国際関係学部, 准教授 (00706822)
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研究分担者 |
阿部 哲也 関西医科大学, 医学部, 准教授 (20411506)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 医療社会学 / ヘルス・コミュニケーション / 会話分析 / 意思決定過程 |
研究実績の概要 |
今年度は、特にプライマリ・ケアにおける診療場面の分析に注力した.診療場面における患者の基本的課題の1つは,受診の正当性を示すことである.患者が主訴に関してすでに他の医療機関を受診したあとで現在の受診に至っている場合,その先行する診療を担当した医師に関する不満は,さらなる医療ケアの必要性を伝える点で受診の正当化の重要な手立てとなりうる.だが,そうした不満は受け手の同業者に向けられている点で共感を得にくく,話し手自身に関する負の評価を喚起する可能性もあるデリケートな行為である.このジレンマが相互行為の中でどのように対処されているかを,医学的に説明のつかない症状を持つ患者の事例を中心として,会話分析の視点から考察した.以上の内容は、社会言語科学22巻、2号に研究論文として掲載された. また総合診療科の特色に着目した分析を進めた.日本の医療システムの特徴として高い柔軟性が挙げられ、その最たるものがオープンアクセスと言える(OECD, 2014).患者は自由にどの診療科にかかるのかを選択でき、脳外科といったかなり専門的な診療科でさえ自身の決定によってかかることが可能である.しかし、こうした医療システムにおいて十分な自由を享受しているように見える患者は、同時に最適な選択を行う責任を負うことになる.またこのシステムの特性上、大病院に患者が集中することを避けることはできない.そのため大学病院の外来では、軽症患者の病院へのアクセスを制限するためのgate keepingが必要となる.総合診療科において医師が担うgatekeeping workに着目した.医師が「様子見」や「かかりつけ医の受診」など、今後継続して大学病院では治療を行わないことを勧める際、患者の抵抗をどのように扱い、治療方針の話し合いを行なっているのかを分析した.現在この分析について学術論文の執筆中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究成果の発表については、概ね順調に進んでいる.2019年5月には香港での国際語用論学会にて発表を行い、現在その内容について論文を執筆中である.しかしながら、年度後半にデータの文字化(トランスクリプト作成)に当たって遅れが生じたため、次年度までこの作業を延長することとした.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、収集した映像データのトランスクリプト化と同時に、分析の最終段階である論文執筆と共に教育内容にフィードバックする内容の精査を行う.具体的には、年度前半にトランスクリプト作業を終了させ、後半には、現在分析を進めている内容についてInternational Journal of Pragmaticsへの投稿を予定している.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題では,医療診察場面の映像データの書き起こしのために学生アルバイトの雇用を予定していた.当初の予定では,今年度3月末までの作業を想定していたが,当該学生が卒業に伴い早めに現住所を移したため,12月以降書き起こしが進まなかった.このことから,再調整の上,作業を実施する必要が生じたため,1年間の延長を希望した.次年度前半に、これらの作業を終了させる予定である.
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