本研究においては、女性支援の現場において支援者がいかに「ジェンダーが利用者にもたらす困難」と「他の抑圧要素」との関係を把握しているのかを明らかにすべく、インタビュー調査を試みた。その結果、利用者の入所理由によって利用者の困難が「ジェンダーに起因するものかどうか」を判断される傾向があることが浮かび上がった。具体的には、DV被害者や性暴力被害者は「ジェンダーに起因する困難」を抱えているともっとも判断されやすく、精神障害者やアルコール依存症者はそうではないとされる傾向にある。なお知的障害のある入所者については、性産業に従事したことがあり、今後も希望するという者が少なくないことから、彼女らが性的搾取の対象となりやすいことを懸念し、ジェンダー課題を最も抱えやすい利用者ではないかと示唆する語りが多かった。「ジェンダーに起因する困難」と「他の抑圧要素」が重層化し、利用者の困難状況を深刻化させていることについては、「利用者の生活歴と、よりマクロな社会構造が困難の背景にある」ことを明確にかつ力強く語る支援者もいたが、それはむしろ少数派であった。抑圧という概念を手にしていない支援者や、構造という言葉にも違和感がありそうな支援者もいた。おそらく、わが国の支援現場がミクロ主導であり、支援者が生活問題と社会構造との関連を意識できる環境に必ずしも無いこと、専門職養成の過程でソーシャルワークの構造的アプローチを学ぶ機会に乏しいこと、フェミニストアプローチに対する反感があることなどが原因かとも思うが、憶測の域を出ない。多くの支援者は、ジェンダーに関連する困難要因とその他の要因を切り分けては捉えておらず、一体のものとして理解していることも明らかになった。
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