研究課題/領域番号 |
16K04175
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研究機関 | 札幌大谷大学 |
研究代表者 |
永田 志津子 札幌大谷大学, 社会学部, 教授 (60198330)
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研究分担者 |
林 美枝子 日本医療大学, 保健医療学部, 教授 (40295928)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 介護保険 / 総合事業 / サービス提供者 / 支援体制 / ネットワーク構築 |
研究実績の概要 |
平成29年度から完全実施の「総合事業」では、通所型サービスと訪問型サービスが地域支援事業に移行されるにあたり、サービスの内容や提供者、提供方法などが課題とされてきた。そのため、本研究では、各自治体における総合事業の進捗状況と課題を整理し、地域の支援体制の構築に関わる多機関・組織・その他の団体等によるネットワーク構築の可能性を探ることを目的として調査研究に着手した。28年度は、地域資源により各自治体には独自の取り組みが求められることを明らかにした。これに続き29年度は自治体内での関連諸機関、諸団体の特性および総合事業に向けた取り組みと連携の実態を探ることを目的にヒアリング調査およびアンケート調査を実施した。調査結果から動きは全市的なものと区内限定に分かれることが判明したため、市内全域に渡る関連団体、住民組織等を調査対象とした。民間事業所は有料会員制で高齢者の生活支援サービスを提供するNPO法人B(札幌市)、訪問介護サービス提供事業所H(札幌市)、多企業によるコンソーシアムモデル事業所T(札幌市)を選定、また準公的組織としては、札幌市において28年度のモデル事業となったH社会福祉協議会の取り組みを、さらに先進事例として道内Ⅰ町での市民参加による取り組みに関しヒアリング調査を実施した。また高齢者自身もサービス提供者と想定されることを鑑み、社会参加を実践している高齢者グループを対象にアンケート調査を実施した。関連事業所や団体は手探りで模索している段階であり、それらのネットワーク構築には至っていない。I町の取組では、町役場と社協の緊密な連携のもとに住民団体の参画がスムーズに進み小規模町村ながら総合事業が実際的に機能しているといえる。なおこれらの結果は関係学会および所属大学研究紀要で報告し、さらに日本社会保障人口問題研究所の研究会において事例報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「総合事業」は平成29年度で全自治体において完全実施となるため、第一に北海道内全自治体を対象に進捗状況に関するアンケート調査を実施した結果、各自治体は資源とその展開方法の開拓に困惑していること、地域の独自性に基づく個別のシステムが必要であることがわかり、結果を第76回日本公衆衛生学会において報告した。第二に札幌市内におけるNPO法人、介護保険サービス提供事業所、社会福祉協議会、多企業によるコンソーシアム実施団体において半構造化面接を実施した結果以下が判明した。NPO法人では利用者が区内に限定されていないこと、有料会員制組織でのサービス提供は活動者と利用者のバランス維持のため積極的なPRに至らないなどネットワーク構築の困難性が見られた。介護サービス事業所では報酬改定と職員の欠員により事業運営が最優先され「総合事業」への参画は少なく、住民サービスの利用希望も少ない。社協では、町内会、民生委員等の連携が先行している区であっても、地域資源の集約が終了し住民ボランティア組織を立ち上げた段階であり進んでいるとは言えない。多企業コンソーシアムでは、スキームを持つ全国展開企業と地元企業の協働でモデル事業を始めたばかりであり、1区内での展開であるが今後の継続性については不明である。 第三に住民主体サービス提供者と想定される人々を対象とするアンケート調査の結果、高齢者支援の有償ボランティア参加は、町内会活動経験の有無や年齢により有意差がみられるが、「総合事業」の認知度は低く高齢者個人宅でのサービス提供の可能性は低いことがわかった。本調査結果は札幌大谷大学社会学部論集で報告した。第四に北海道内で最も総合事業に関わる取り組みが進んでいるI町における取組の視察と調査を行った結果、要支援者の受け皿づくりとは一線を画す住民主体の取り組みが介護予防に寄与するなど有用な示唆をえることができた。
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今後の研究の推進方策 |
29年度までの研究により、「総合事業」の展開は、自治体または地域が保有する物的・人的資源により大きく異なることがわかった。特に地域住民の主体的活動またそれらの組織と公的機関の連携が総合事業の推進に大きくかかわることが明らかである。民間企業主導型では、公的サービス機関や関連専門職種との連携が一部にとどまっている状況が見られた。調査範囲内では、多くの公的機関が足踏み状態であるのに対し、民間企業主導型はスキームの活用により他地域へも拡大の可能性を秘めているが、現行ではモデル事業としての取り組みの段階であり、継続性、持続性については楽観視できない。しかし他市への広がりも見られることから民間企業参加型の総合事業の可能性をさらに探っていきたい。専門職種間の連携の状況に関しても今後の研究課題である。29年度は医療機関に関し連携の状況を探ったが、個人的なネットワーク内にとどまっている状況が見られ、ネットワーク強化の方向性を探りたい。また教育機関の参加可能性に関しては30年度に持ち越すこととなり、アンケート調査を実施する予定である。 また30年度はこれまで検証の遅れていたサービス利用の当事者の状況を明らかにしたい。「総合事業」の開始により新たに訪問型サービス、通所型サービスの利用者となるこれまでの要支援該当者に対し、総合事業の進捗状況が具体的にどのような影響を与えたかを探る必要があると思われる。さらに総合事業におけるサービス利用の水際ともいえる地域包括支援センターでは、どのように地域資源の集約と周知が進んでいるか、それらの情報はどのように地域の高齢者や家族に提供されるのかを探り、最終的には地域資源の当事者同士のネットワーク形成の現状と可能性を検証する予定である。
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