介護倫理教育の現状と、問題の認識および対処との関連要因を明らかにし、介護倫理教育のあり方を検討するために研究を行った。養成課程におけるシラバス及びテキストの内容調査から、倫理教育内容を分析したところ、養成校の全てに倫理科目が配置されていたが、選択科目が大半で必ずしも履修するとは限らないこと、低学年配置であることや講義内容が基礎知識の教授にとどまっていることなどから、具体的な倫理問題の対処までは触れられていないことが明らかになった。しかし、介護系専門科目においても倫理を扱うことが多く、倫理科目と重複して倫理を学ぶ機会があること、実習や事例検討などを通して具体的な倫理問題を考える機会があることから、倫理科目と専門科目間での倫理教育における「相互補完的役割」があることが見出された。 さらに、現場の介護福祉士が、どのような現任教育を受けているのか、倫理的問題の認識や対処はどのようなものかについて質問紙調査を行なった。その結果、援助者の行為が問題となるもの、個別性に応じた生活援助ができていないことが挙げられた。また問題への対処方法がわからない、規則やシステムで改善できない等で問題に取り組めない状況が明らかになった。また現任教育では、従来の研修プログラムが基礎知識伝授および事例検討によるアプローチがほとんどで応用が難しく、現場の具体的な問題の判断や解決方法を望む意見が大半を占めた。そのため個人の感情・思考・行動のパターンを知ることで、倫理的問題に対する気づきと思考変容を促すことを目的とした倫理研修プログラムを開発し、介護施設職員を対象に実施した。その結果、多様な価値観の理解、問題への関心が高まるなどの効果が見られた。また追跡調査として行った管理職に対するインタビューでは、研修後に倫理的問題に対するディスカッションが増え、お互いの価値観を認め合い、協働する傾向がみられた等の効果があった。
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