本研究では,長期入院精神障害者(以下,長期入院者)の地域移行支援を担う相談支援事業所に勤務する精神保健福祉士(以下,PSW)の長期入院者との「かかわり」のプロセスについて,長期入院者の退院支援において先進的な実績を有するA圏域でのインタビュー調査を通して明らかにすることを目的とする. 本研究は,①相談支援事業所PSWに対する長期入院者との「かかわり」形成プロセスに関するインタビュー調査,②元長期入院者に対するPSWとの「かかわり」形成プロセスに関するインタビュー調査 以上2つの調査から構成される. ①の調査では,A圏域の相談支援事業所において退院支援に携わる7名のPSWに対するインタビュー調査を実施し,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチによる分析を行った.分析の結果,3つのカテゴリーからなる「かかわり」のプロセスを明らかにした.まずPSWは,退院支援という自らの業務を一旦横におき,長期入院精神障害者との<お互いを知るための「つきあい」>を通して,彼らに「人」として信用してもらう.次に彼らと<パートナーとして認めあう関係>を築き,退院という共通の目標に向けて協働する.最後に退院という目標がなくなり,援助関係が終結した後も,彼らと「人」として<つながり続ける「かかわり」>を築くに至っていた. ②の調査では,3名の元長期入院者に対するインタビュー調査を実施し,ライフストーリー・インタビューにおけるテクストの解釈を参考に分析を行い,3つのカテゴリー,13の概念を抽出した.分析の結果,長期入院者とPSWとの関係は,場面毎に「人と人」としてのかかわりと「援助する者‐される者」から成る関係が入れ替わり,どちらかの関係が前景に出てくる.しかし,一方の関係が完全に消える訳ではなく,後方に下がっているに過ぎず,この2つの関係を併せもつ関係であることが明らかとなった.
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