本研究の目的は、日本において居所の喪失に至るような不安定な居住状態(広義のホームレス状態)にある女性や家族の実態を明らかにし、その支援課題を探ることである。先行研究のレビューから、多くの先進国では居住の安定性の程度(安定から不安定、居所なしまで)に着目し、女性や家族も含めた「ホームレスと居所不安定(Homelessness and Housing Exclusion)」状態として把握し、幅広く居所の安定性を高める政策が取られていることが分かった。それに対し、日本の「ホームレス」対策は主に野宿者(主に単身男性)を対象とした取り組みであり、居所不安定な女性や家族には統一された支援枠組みは存在しない。現状としては、地域に偏在する福祉施設(婦人保護施設、更生施設、無料低額宿泊所等)が居所不安定な家族や女性の実質的な受け皿になっている。そこで本研究では、婦人保護施設と更生施設を対象に実態調査を行い、女性の居所不安定層の特徴と課題を整理した。女性は精神疾患・障害を持つ利用者が7割と高く、入所経緯は病院退院後帰来先なしとDV避難が多い。親やパートナーからの暴力被害経験者も多く、心身の不調の遠因になっていることが伺えた。また、更生施設職員の感じる利用者の支援課題について男女別に分析し、その違いや支援スタンスの違いについて明らかにした。男性は施設支援において指導に従うことや規則の順守、就労が重視されるのに対し、女性は人との関わりにおける課題が多いため双方向の関りを重視した支援が行われていた。さらに、ホームレス状態に対する男女異なる対応が日本特有のものかを確認するために、韓国の女性ホームレス支援現場の視察を行った。結果、韓国では「ホームレスと居所不安定」を幅広くホームレス状態として認識し、対策も野宿者に限定せず居所不安定状態の家族を含む支援体制が取られていることが明らかとなった。
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