はじめに、最終年度として、2009年~2019年に実施した限界集落での繰り返し横断調査データから、10年間の変化をまとめ、2019年度のアメリカ老年学会にて発表した。2009年時点の65~74歳の45人と2019年時点で75~84歳の26人について、比較検討した結果、介護サービスの不足や金融機関の不便さが、有意に改善しているという結果となった。また、地域の将来について住民同士で話をする機会が有意に減少していた。これらの結果は、75~84歳で介護サービスが必要で、金融サービスに不便を感じる人たちは、この村を離れざるを得なかった可能性も考えられる。また、地域の将来について話題に上がることが減少していることからも、高齢期において地域で最期まで暮らし続けることの困難が示唆されている。 次に、限界集落で生活する75歳以上の高齢世帯(一人暮らし含む)を対象としたインタビュー調査データの計量テキスト分析を行った。コレスポンデンス分析の結果、「個人-社会に関する問題」、「日常生活-長期にわたる地域の維持に関する問題」の2軸が解釈され、抽出された各カテゴリーは、移動、病気、買い物といった困難を表す「日常生活」、空き家の増加や若者の流出などの地域の長期にわたる持続可能性に関連する「地域要因」、不安やネガティブな感情、家族や親の死、跡継ぎの不在を表す「苦悩」、困難に対して役に立たないことなどを含む「個人的否定感情」といった4つのグループに分類された。これらの結果から、限界集落における75歳以上の高齢世帯において、生活の質の維持に必要な資源へのアクセスが制限され、不足している状況が分かり、ヘルスケアや食料、若い人たちが暮らしやすくするために必要なものへのアクセスを確保することの必要性が示唆された。
|