本研究は、日本における成年後見制度が権利擁護のしくみとして注目されてきた背景を探り、制度創設に大きく関係した福祉サービスの利用契約の仕組みについて、判断能力が不十分な人々自身の主体性や権利行使という観点から考察を行ってきた。最終年度にあたる2018年度は、これまでの研究成果の集大成として、以下に焦点を当てた研究を実施した。 ①定例の研究会では、具体的な事例を通じて、成年後見制度の機能や限界を明確化すると共に、より本人の意思を尊重する代替策の可能性について協議した。②主として社会保障法体系の中で検討されてきた権利のありようについて、過去の論文や障害者権利条約の指摘から吟味した。③日本において現在利用されている契約書や個別支援計画の書式、作成のプロセス等を再度検討し、契約における当事者本人の位置づけや成年後見制度のあり方について考察した。また、今後の研究を進めるヒントとなる関係的権利について、予備的研究を行った。 本研究では、これまで文献研究並びに主として障害分野における当事者・家族、行政関係者等へのインタビュー調査を交えて、地域に根差した真に有効性のある権利擁護システムの姿を提示することを目指してきた。 3年間を通じた研究の結果、以下の点が明らかになった。①日本の成年後見制度は、本人を能力が欠如している客体と捉える一方、その意思を尊重するという矛盾を内包したまま「権利擁護のしくみ」という理解が広まり、実務上の必要性も相俟って制度の利用促進が目指されている。②国連障害者権利条約が指摘する「意思決定支援」への転換の議論は不十分な状態のまま、事業者が行う援助技術として日本の法制度に取り入れられるに至った。③現行の福祉サービスの契約は、形骸化しており、当初の導入目的を乖離している。これらの内容を研究報告書にまとめ、研究協力者と共に原稿を執筆した。
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