本研究は、法律や規制、基準という縛りではなく、子どもの保育・教育に対して、社会全体の自律の力が働くことが、子どもの保育・教育の質的低下を防ぐことに繋がるという見解に基づき、保育における国や社会の姿勢(自律的意識)を「社会的責任」として、明らかにすることを目指した。最終年度はイギリスに渡航し、現地研究者へのヒアリング調査を行うことを予定していたが、諸般の事情によりメールでの情報収集と変更した。まずイギリスでの「社会的責任」の意識がどのような過程で発達し、保育・教育サービスのOFSTED等の質的評価の仕組みへと結実したのかについて研究を進めた。その結果、イギリスにおいて保育・教育を含む子ども福祉政策の発展過程から「社会的共同親(Corporate parenting)」という用語の重要性が浮かび上がった。「社会的共同親」の理念は、サッチャリズムのもとで、一時後退した子どもの社会的養護サービスを再生するために掲げられたものであり、重大な施策を基礎づけるための「国家的理念」として1980年代後半頻繁に使用されていた。この概念は、「家庭で暮らせない子どもへの支援は実親が自分の子どもに対して行う親業と同質のものでなければならない」ことと、「社会的養護責任は地方自治体が担う」という子どもの育成に対する「社会的責任」を具体化したものである。この考え方自体は、第二次世界大戦以後のイギリスが築き上げてきた福祉国家構想の中では随所にみられる視点で、イギリスにおける児童保護施策の根底に流れる理念である。この「社会的共同親」原理は、社会的養護政策に適応される理念ではなくすべての子どもを常に視野にいれた上で強調されていることが特徴である。そのため、「社会的共同親」の意識により、自律的な意識が働き、法律や公的な規制が存在しなくても、保育・教育サービスの質が担保される土壌が形成されていることがわかった。
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