障害者権利条約に照らした当事者の意思決定と社会参加について、日欧で文献および調査研究を実施し、分析を行った。分析にあたっては、①障害者権利条約の履行に関わる障害者権利委員会による審査に関わる結果等をはじめとする同条約の実施に関わる資料、②社会的排除および就労と生活に関わる統計や実態調査、③ワークライフバランス政策を活用した。研究開始時からの文献および調査研究の積み重ねに基づき、最終的に、③の枠組みを用いるに至ったのは、就労と生活に同時に焦点をあてることを可能とし、当事者の社会参加全体を視野に入れられるためである。 分析の結果、EUおよび加盟国、日本のいずれにおいても、障害のある当事者にとって障害者権利条約の履行は不十分であり、当事者は就労と生活において相当程度の社会的排除を経験していることが明らかになった。さらに、意思決定の段階から社会参加の実際にいたるまで、生活と就労の状況が相互に密接に影響し合っていることがわかった。一方、社会的排除や包摂の度合いや、意識(意思)と現実の差については、EU加盟国や日本における、異なる国々の間で相違が見出された。 これらを踏まえて、EU全体の枠組みと状況を確認した上で、自由主義モデルに属するイギリス、社会民主主義モデルに属するスウェーデン、加えて日本型福祉国家としての日本に焦点をあてた。異なる福祉国家レジームにある国々において、就労と生活における意識、意思決定、選択肢、実際の就労と生活状況には相違が見出された。また、これを障害のない当事者(あるいは、一般の者=障害のある者のない者の双方を含む対象者)との状況において検討した。 以上を踏まえて、どのような要因が、障害者権利条約に照らして当事者の意思決定を尊重し、かつ社会参加を促すのかについて考察した。
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