最終年度は、この研究の成果報告書の作成を行った。これまでの3年間で、明治期後半の感化救済事業と呼ばれた時期から昭和初期までの時期の社会事業と感化教育、社会教育との関係を検討し、論文4本、学会報告3回の研究成果を1冊にまとめた。 研究期間全体を通して明らかになったことは、当時の社会事業成立過程に見られる「教育」を含む事業として、児童への教育、貧児・孤児への教育、不良少年への教育、子守教育、補習教育、職工教育、社会教育、成人教育、道徳教育、人格教育、成人教育、農村教育など、教育という用語が直接使われるもの、さらに、教育的内容を含んでいるものとして、感化、教化、図書館・活動写真の利用による啓蒙、思想善導、生活改善などがあり、多様な<教育的なもの>が存在していたことであった。 社会事業成立過程では、生活改善と補習教育は、合理的な生活方法の指導や職業上の知識・技術の指導を行うもので、生活安定や貧困予防としての防貧的な事業であった。内容も幅広く、生活改善、教化、成人教育、社会教育、思想善導は、貧困問題以外の課題への対処でもあった。社会事業関係者たちは、<教育的なもの>を多様に設定することで、社会事業形成過程において、自らの事業範囲を増幅させた。社会事業の成立は、防貧的な機能を持つ事業が展開したことであるが、その過程で<教育的なもの>も浸透し、社会事業によって人格や生活にまで行政が介入することになるが、それは<教育的なもの>の多様な展開の中で生じた。 さらに、生活改善は、文部省の社会教育の領域でもあった。生活改善とは、社会を改良すること、人びとの日常生活上の習慣や規律に関わり個人を教化することを目的としたものであり、また社会教育が求めた道徳が連帯と協同を目指し、個人の内面に入り込み介入するものとして理解されていた。社会教育が確立する過程は、社会教育上の生活問題の発見でもあった。
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