本研究の目的は、地域包括ケアシステムの枠組みにおいて、介護保険等の一般施策がうまく対応しない住民の福祉的ニーズに対する基礎自治体の独自性と役割について明らかにすることである。 これまで自治体独自の福祉施策である生活支援ハウス運営事業に着目し、基礎自治体の取り組みの中でその独自性と役割について確認する作業を続けてきた。A県調査や公文書等の資料研究では、1990年代以降の福祉政策の変遷過程において、介護保険などの一般施策が及ばない地域がそれらの代替や受け皿としてこの事業を導入し、実情に応じ様々な意図をもって運用してきたことが明らかになっている。しかし当該事業は法令に規定されていないため、実態については調査対象となった特定地域の報告にとどまり、全国の運営自治体がこの事業を通じてどのように実情に応じた独自性ある取り組みをしてきたのかについての実証的研究はほとんどない。 本研究においては、全国の運営自治体を対象とする質問紙調査(量的調査)を実施し、まずは実態を把握することを試みた。多くの自治体の協力を得ることができ(回収率80%弱)、各市町村担当者らが他自治体の運営状況について強い関心をもっていることが明らかになった。最終年度においては、調査結果の概要整理、データの分析を行った。この事業の運営は、市町村福祉事業として社会福祉法人等に運営委託している自治体が多く、後期高齢者の利用が多かった。また、地域包括ケアシステム構築のための福祉実践のみならず、運営費確保の課題があり、事業運営を中止する自治体もみられた。 今後は、全国の状況をふまえた協力自治体の意見も参考にしながら、住民の福祉ニーズに応える福祉政策および運営について研究成果の公開をすすめたい。
|