本研究では、障害者個人をとりまく関係性の変化として自立を捉え、自立に向かうプロセスを明らかにすることで、重度の知的障害者を包摂する自立概念の確立を目指した。具体的には、①変化のプロセスを分析するための関与観察とインタビュー調査、②「学校から社会への移行」に関する実践的研究、③方法論としてのエピソード記述の検討に取り組んだ。 ①については、開設直後の福祉ホームにおける関与観察と、入居者の家族に対するインタビュー調査を3年にわたって行った。データ収集とその検討を探索的に行うなかで、入居者と事業所の職員が参加するインタビュー調査が必要となり、追加調査としてグループインタビューを実施した。自立に向かうプロセスに関しては、普遍的な望ましいベクトルや概念を示すことよりも、一人ひとり異なる個別の自立のあり方を言語化し共有する「仕掛け」の導入が必要であることを明らかにした。研究結果は今後2年以内に公開予定である。 ②については、自立に向かう変化のきっかけとして「移行期」に着目し、イギリスを中心に海外の情報を収集するなかで、知的障害者の「自立」やその「支援」よりも、「包摂(インクルージョン)」に向けたアクションに重点が置かれてきていることがわかった。とりわけ、知的障害者が調査研究のプロセスに参加する「インクルーシブリサーチ」が、英語圏に比べて日本は相当に後れをとっていることから、本研究では「インクルーシブリサーチ」の実践的な研究に取り組みながら、知的障害者と社会との「関係性」について検討した。この検討を踏まえて、本研究を2019年度から取り組む「方法論としてのインクルーシブアプローチ」の研究に発展させることができた。 ③については、当初は①の関与観察の分析に用いる予定であったが、他の分析方法が適切であると判断した。エピソード記述の方法論に関しては、学会における討論等をとおしてその可能性を検討した。
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